今回の『三省堂国語辞典 第六版』の帯には「現代(いま)を映し出す日本語を大増補!」と大きく書かれています。増補項目の多さは大きな特長です。「4,000語を追加」とありますが、実際はさらに何百語か超えます。類書の最近の改訂と比べても断然多いといえます。全体の項目は73,000以上、派生語などを含めれば、ほぼ8万語に達します。
増補項目の多くは、これまで辞書に載らなかったことばですが、中には、以前の版でいったん削られていた「復活組」のことばもあります。
『三国』は、もともと語数を多く載せる辞書ではありませんでした。今でも、いたずらに語数を増やせばいいという姿勢ではありませんが、当初は、小学校高学年から中学生の使用者をねらっていたためもあり、それに見合う語数にしていました。初版(1960年)の序文には「精選された見出し語五万七千」と記されています。
当時、一般によく使われていた小型辞書の代表は『明解国語辞典』でした。『三国』と同じく見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)の編集による辞書です。『明解』の改訂版は66,000語を載せていましたが、『三国』は、ここからことばを大量に削り、新しいことばを増補して出来上がりました。
こういう経緯があるため、『三国』の古い版を見ると、必要なことばがなくて「あれっ」と思うことがあります。たとえば、『明解』にはあった「一揖(いちゆう)」は、『三国』の初版では削られました。また、「義挙」は、『三国』の初版には載っていましたが、第二版にはもうありません。硬いことば、昔ふうのことばなどが、かなり削られた模様です。
今回の改訂では、削られてしまったことばのうち重要語を、改めて追加しました。「逸聞」「家格」「佳句」「麾下(きか)」「降嫁」「悉皆(しっかい)」などもその例です。
むずかしいことばだけでなく、日常的なことばでも、削られていたものがあります。代表的な例が「雨降り」。『明解』にはあったのに、『三国』の初版ではなくなっています。「雨が降るから雨降りで、当たり前だ」というわけで、不採用になったのでしょうか。でも、北原白秋の童謡にもあり、情緒を感じさせる日本語です。第六版では復活しました。
難解に思われることば、取るに足りないようなことばの中にも、現代語としてよく使われ、無視できないものがたくさんあります。多くのことばが、第六版で返り咲いています。