新聞社の元校閲記者の金武伸弥さんによれば、新聞・出版界では、大きな辞書にないことばでも『三国』(三省堂国語辞典)を引けばある、と冗談まじりに言われるそうです(『『広辞苑』は信頼できるか』)。これはけっして冗談とはいえないので、中型クラス以上の辞書にないことばでも、『三国』に載っていることが非常によくあります。
一般には、大きな辞書というものはどんなことばでも載っていて、小型辞書の項目はそこから選び抜いたものと考えられがちです。実際、それはある程度当たっています。ある小型辞書の1ページを、たとえば『大辞林』と比べてみると、ほぼすべての項目が『大辞林』に含まれています。
ところが、『三国』の1ページを大きな辞書と比べてみると、『三国』にしかない項目がおもしろいように出てきます。ためしに、今回の第六版で入った新項目のうち「カ行」のことばについて、複数の大きな辞書(最新版)と比較してみると、以下のようなことばが『三国』独自の項目です。
「ガーデナー・ガーリー・かあん・会員権・怪演・買い増す・格落ち・掛け湯・がしっと・がしゃん・家族葬・型番・語り下ろし……」
ごく日常的に目にすることばが多く含まれていることにお気づきでしょう。「怪演」はテレビドラマや演劇の批評の記事によく出てきます。電器製品の「型番」は、サポートを頼むときはいつも必要になります。でも、これまでの辞書には漏れていました。
これらはあくまで新項目の一部にすぎません。また、第五版以前から載っていたものも合わせれば、この何倍ものことばが『三国』ならではの項目ということになります。
『三国』にしかない項目がいくつもあるというとは、べつに大きな辞書の怠慢ではなく、『三国』自身の努力のたまものであることを強調しておきます。『三国』は、初版以来、新しいことばを集めるだけでなく、「辞書にこれまで漏れていたことば」を見つけようとする姿勢をはっきりさせています。この姿勢は今後も続くでしょう。
大きな辞書しか家に置いていない人は、これまでは少数派だったはずです。でも、電子辞書の普及で、辞書といえば大きな辞書の電子版しか見ない人も増えました。そういう人に、あえてお勧めします。どうぞ、『三国』をあわせて引いてみてください。