大規模英文データ収集・管理術

第33回 構文別・4

筆者:
2012年9月17日

今回は、4回にわたった「構文別」の最後で、「省略構文」と「補足説明構文」を取り上げます。

「省略構文」とは、ぼてぼてと重苦しい構文にならないように、ありとあらゆる方法を使って、不要な語句を省略している構文で、「補足説明構文」は、2つの文の関係とバランスを巧みに処理した、日本人にとっては、やや近寄りがたいような構文です。

5 省略構文

「トミイ方式」では、「省略構文」を次の6個の「小分類」に分類しています。その他にも、前置詞や冠詞の省略ということはありますが、これらについては、それぞれの品詞のところで収録されています。

1 目的格の関係代名詞の省略
2 助動詞の省略
3 動詞の省略
4 主語(または、その一部)の省略
5 名詞の省略
6 特殊省略法

1 目的格の関係代名詞の省略

これは、学校英語の守備範囲ですので、どなたでもお分かりのことと思います。

2 助動詞の省略

これは、技術文ではよく目にする省略法で、大変大事なテーマですので、例を挙げて説明します。

この省略のメカニズムを、「公式」として示してみますと、下記のようになります。

S1 V1 and S2 V2

すなわち、2つの文が and で結ばれている時、2つ目の文の中の助動詞が省略されることです。わかりやすいように、実例を挙げて説明します。

Here, the amount of moisture that can be tolerated must be specified first, and the required dew point determined from this value.

この英文において、主語(S1)は the amount of moisture,助動詞は must be,動詞(V1)はspecified,主語(S2)は the required dew point,そして動詞(V2)は determined です。

この例文では、the required dew point と determined の間に、must be が省略されています。したがって、後段は、

必要な露点はこの値から決定しなければならない

となります。全体を通して、英文通りに素直に訳すと、

まず最初に許容できる湿気の量を決めなければならない、そしてこの値から必要な露点を決定しなければならない

となります。しかし、これでは、「なければならない」が両方の文にあって重いので、日本語では、後の文だけに残し、

まず最初に許容できる湿気の量を決め、ついで、この値から必要な露点を決定しなければならない

とします。

もし、the required dew point と determined の間に must be が省略されていることに気が付かなかったとすると、後段は訳しようがなく、文法的にはめちゃめちゃになりますが、determined という、本来は過去分詞であるものを過去形と解釈して、「必要な露点をこの値から決定した」と訳してしまうことになります。

結論として

英語では助動詞を前の文に残し、後の文から省略してしまいますが、日本語では、「なければならない」を前の文からは省略し、後ろの文にのみ残す

これが、助動詞の省略法というものです。

和訳文は省略しますが、3つの文から成る重文の例と4つの文から成る重文の例を挙げます。わかりやすいように、助動詞が省略されている個所には*マークを付けてあります。

Establishment of clear channels of information feedback from the operator in the field to the designer and manufacturer, so that the cause of failure may be remedied, the performance evaluated, and maintenance techniques developed.

If stiffener spacing is varied, web frames curved, many different shapes used, and plate stiffeners located asymmetrically, the design may become difficult to fabricate and offset savings in material costs by increasing labor costs.

3 動詞の省略

4 主語(または、その一部)の省略

5 名詞の省略

3、4、5は省略します。

6 特殊省略法

まず、実例から見てみましょう。

Two-stage helical reducers are used for reductions of 3:1 to 40:1, three-stages from 30:1 to 200:1, and four-stages from 150:1 to 900:1.

この英文は、ヘリカル減速機の減速範囲について述べたものですが、二段式ヘリカル減速機は Two-stage helical reducers というように正式な呼び名で書かれているのに対し、三段式ヘリカル減速機と四段式ヘリカル減速機については three-stages とか four-stages などと書かれています。実は、これが「特殊省略法」というもので、helical reducers の最後の s を three-stage とか four-stage などの後ろに付けて表現しているわけです。この表現方法は非常に頻繁に目にすることがあります。この「特殊省略法」は、英和翻訳の時に間違わずに正しい日本語に翻訳できるようになり、さらには、この「特殊省略法」を和文英訳の時に活用できるようになると、出来上がった英語が、ストレスの抜けた、すっきりした英文になります。

大事ですのでいくつか英例文を挙げておきます。

Generally, metallic particles show up white and nonmetallics in varying shades of gray.

Separate flow-control valves are used much less frequently in pneumatic systems than in hydraulics.

いろいろな形の省略構文をたくさん集めると、おのずから自分でも、省略法を取り入れた省略構文を書くことができるようになり、今までのぼてぼてした英文が、贅肉を落とした英語らしい英文になるはずです。

6 補足説明構文

この構文は、1つの文(以下、主文と称します)の後ろに、その文をさらに補足している文(以下、補足文と称します)が続く時の文構造です。その時、主文と補足文の間が

○ 対等にならないように
○ 無関係にならないように

配慮している文構造です。

もし、主文と補足文を and でつないでしまうと、これら2つの文は対等になってしまいます。一方、主文と補足文を、主文の文末にピリオドを打って区切ってしまうと、両者の関係が無くなり、単に2つの文が、丸太のように並べられているような関係になってしまいます。

そこで、この構文では、下に示すように、主文の後ろにカンマを打ち、補足文を主語+分詞で表わした述部動詞を、主文の後ろにつなげます。分詞には現在分詞が最も多いですが、過去分詞のこともあります。そして、現在分詞の場合、自動詞の現在分詞もあれば他動詞の現在分詞もありますが、最も多いのは being です。

S1 + V1 + 〜, S2 + V2ing [または、V2 ed] + 〜.

以下に、いろいろな述部動詞を取る文構造の例を英例文とともに示してみます。(補足文の部分だけを示します)
(a) S2 + being + 〜 .

Radiation is one of the three basic methods of heat transfer, the other two methods being conduction and convection.

(b) S2 + 現在分詞 + 〜 .
 (i) S2 + 自動詞の現在分詞 + 〜 .

The double-pipe type consists of one tube inside another, one fluid flowing inside the inner tube and the other flowing in the annular space between tubes.

 (ii) S2 + 他動詞の現在分詞 + 〜 .

Each television frame consists of two interlaced fields, each requiring 1/60 sec.

 (iii) S2 + being + 過去分詞 + 〜 .

Ten or twelve of these possible combinations are normally used for dialing information, the other four codes being reserved for data sending purposes.

(c) S2 + 過去分詞 + 〜 .

In the signal box are pulleys, each connected to an operating lever.

要するにこの構文は、まず主文を述べておいて、その後に、「あなたは、もしかしたらわからないかもしれませんが、もう少し細かく説明すると、これこれこうなんですよ」といって、声のトーンを少し下げて相手方に補足説明するというシチュエーションを想像していただくとよいと思います。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。