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第32回 構文別・3

筆者:
2012年9月3日

今回は、「構文別」の中の「倒置構文」と「強意構文」を取り上げます。この2つの構文は、いずれも、ふつうの文で書いただけでは正確なニュアンスが出せない時に使用する構文です。

「倒置構文」は、文法上やむを得ず語順を倒置させたり、ある言葉を強調するために倒置させたりする構文です。また「強意構文」は、ある言葉を強調するための構文です。
この2つの構文も、前回の「否定構文」と同様、それぞれの構文を構成している各項目を羅列し、説明や解説を必要としている項目だけについて簡単に説明していくことにします。

3 倒置構文

「トミイ方式」では倒置構文を、次のような2個の「小分類」に分類しています。その2個の「小分類」をそれぞれ「細分類」し、それをさらに「細々分類」しています。この表では、「細分類」を(a)、(b)、(c)、……で表わし、「細々分類」を(i)、(ii)、(iii)、……で表わしています。

1 文法上決められた倒置

(a) Here is …..、There is …..の構文
  (i) Here is ……
  (ii) There is ……
  (iii) There are no ……

(b) 否定詞で始まる文
  (i) not only
not onlyの例を一つだけ挙げておきます。
Not only do these signals provide unambiguous feedback to the naive user, but their duality (audio and visual) unsures some feedback under the extremes of either high ambient lighting or high noise levels.
これは、not only …… but (also) の構文ですが、not only が文頭に出ると、these signals という主語と provide という動詞が倒置するわけです。provide を do provide として書かれています。これをわかりやすい語順にしてみますと These signals not only provide …… となります。
  (ii) neither、nor、およびno
  (iii) その他

2 強調のための倒置

(a)前置詞を文頭に
  (i) across
  (ii) against
  (iii) among
  (iv) at
  (v) behind
  (vi) below
  (vii) between
betweenの例を1つだけ挙げておきます。
Between these two aft stations are the on-orbit pilot and payload handling stations.
これは
これら2つの船尾機関ステーションの間には、軌道パイロット用ステーションとペイロード操作ステーションがある
と訳せるものですが、Between these two aft stationsが、決して主語ではありませんが、文章の頭に来ています。それは「2つの船尾機関ステーションの間には」ということを強調したいために倒置しているわけです。これを、通常の文章に並び替えてみますと
The on-orbit pilot and payload handling stations are between these two aft stations.
となり、この英文では、The on-orbit pilot and payload handling stations に重点を置いて書いた平叙文に過ぎません。Between these two aft stations は全然強調されていません。
  (viii) beyond
  (ix) in
  (x) inside
  (xi) into
  (xii) of
  (xiii) on
  (xiv) over
  (xv) to

(b) 過去分詞を文頭に
   過去分詞を文頭に置いて倒置することも、よくあります。
Attached to the moving coil is a pen arm, which traces an ink record o a continuously moving paper chart.
これは
可動コイルに取り付けられているのは、ペン・アームである
と訳される文です。決して
ペン・アームは可動コイルに取り付けられている
と言っているものではありません。
 (c) 形容詞を文頭に
 (d) onlyを文頭に
 (e) asを文頭に
 (f) その他の語を文頭に

4 強意構文

これは、文字通り、文中のある語句を強調したいときに使う構文です。
「トミイ方式」では強調構文を、次のような4個の「小分類」に分類しています。その4個の「小分類」をそれぞれ「細分類」し、それをさらに「細々分類」しています。この表では、「細分類」を(a)、(b)、(c)、……で表わし、「細々分類」を(i)、(ii)、(iii)、……で表わしています。

1 強調したい語や句を文頭に

例えば
地球上では、水素はあまり豊富ではない
という場合、強調ということを、あまり意識せずに英訳すると、おそらく
Hydrogen is much less abundant on the earth.
となってしまいます。英語そのものとしては、別におかしいものではありませんが、元の日本語は、「他の惑星ではどうか知らないが、地球上では、水素はあまり豊富ではない」というニュアンスが込められているのであり、単に、このような英語では
水素は、地球上ではあまり豊富ではない
というニュアンスになってします。そのため、「地球上では、」という語句を強調しなければなりませんが、そのような場合、「地球上では、」という語句を文頭に出し
On the earth, hydrogen is much less abundant.
とするわけです。
これは、どちらかというと、状態や条件などを強調する場合にとられる強調のし方で、前置詞に導かれた副詞句を伴ったものである。そこで、「トミイ方式」では、前置詞順に並べ、英例文を分類しています。
 (a) at
 (b) from
   fromの例文が非常に多いので、英例文を2つ、和訳文とともに挙げます。
From air, oxygen is made by liquefaction and fractional distillation.
  空気から、液化と分別蒸留により酸素が作られる

From water, very pure oxygen can be made by electrolysis as a by-product of hydrogen manufacture.
  水から、非常に純粋な酸素が、電解により水素製造の副産物として作られる

 (c) in
 (d) inside
 (e) on
 (f) through
 (g) to
 (h) with
 (i) without

2 It is 名詞thatで名詞を強調

 (a)  “It is 名詞 that 動詞”の例
 (b) その他の例

3 動詞の前にdo動詞を

これは、一般動詞の前に、さらにdo(does, didなど)を添え、その動詞を強調するものであり、したがって、行為や動作を強調するときに用いられるものです。英例文を挙げますが、これは動詞を強意しているだけですので、和訳は省略します。
Even where interfaces do exist the packages usually are not integrated well enough to allow ready exchange of information about design changes.

It does not that the repeater (using bridges for that purpose), but it does have two additional node types, the MINIMAP node and the MAP/EPA gateway.

4 述部動詞を大文字で

これは、主に、マニュアルに使われる表現で、“確実に____してください”とか、“絶対に____してはいけません”などのように、強く強制する場合に用いる表現です。普通、述部動詞を大文字で書きますが、否定形の場合には、もちろん DO NOT ____ と書き、肯定形の場合でも、動詞の前によくDOを添えて書きます。しかし、これは、決して、文法的ルールではなく、書き手の気持ちですので、いろいろな書き方があります。例えば、
絶対にドライバは使用しないでください
という場合、
DO NOT USE a screwdriver.
DO NOT use a screwdriver.
Do NOT use a screwdriver.

など、いろいろな書き方があります。例文を2つ挙げます。
PLEASE DO write to us in Japanese.
I urge you NOT to vote for Mr. XXX in the upcoming election.

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。