フィールド言語学への誘い:ザンジバル編

第3回 南の楽園? ザンジバルってどんなとこ?(その2)

筆者:
2017年12月15日

前回は、私がフィールドとするザンジバルの地理と気候、そして歴史と政治について述べました。今回は、ザンジバルの宗教となりわいを紹介したいと思います。

ザンジバルの人口はおよそ130万人ですが[注1]、その99パーセントがイスラム教徒と言われています[注2]。私も、都市部を離れて、イスラム教徒でない現地出身の人に会ったことはほとんどありません[注3]。イスラム教であることは、ザンジバルの人の生活の中にも色濃く反映されています。ちょうど日本の寝る前の歯磨きのような感じで、お母さんが子供に「お祈りしたの?お祈りしなさい」という場面は毎日のように目にします(ちなみに、ザンジバルの人はきちんと歯磨きをしません)。普段の言葉遣いでも、オフィスやバスで「アッサラームアライクム(あなたに平安を)」、若い娘がごはんを食べ終わって「アルハムドリッラー(神に讃えあれ)」(ゲップをしながら)、「明日朝9時に会おう」と約束をして「インシャアッラー(神の思し召しがあれば)[注4]」、なんていうイスラム圏では一般的なアラビア語の表現がよく聞かれます。

なりわいとして、私の周りでよくみられるものは、農業、漁業、公務員(教師、警察含む)[注5]といったところでしょうか。農産物としては、キャッサバ、バナナ、マンゴーなどのいかにもトロピカルなものだけでなく、サツマイモ、トマト、みかんなど、日本の人にもなじみのあるものも挙げられます。これ以外に、海藻を浜辺で育てている人(主に女性)もたくさんいます[注6]。漁業は、陸からそう離れずに行われる小規模なものから、タンザニアの大陸部まで渡ってそこに数か月滞在して行うような大規模なものまであります。これは地域によって異なるようです。例えば、私がよく滞在しているマクンドゥチの人が行うのは前者のタイプですが、ウングジャ島の北にあるトゥンバトゥ島の人たちは、後者のタイプの漁業を行っています。

海藻を育てる女性たち

男性がかぶる帽子、ココナツの繊維を手でよったロープやヤシの繊維を編んだカバンもよくある現金収入を得る手段の一つです。また、観光も重要な産業の一つとなっています。観光資源としては、ウングジャ島北部のヌングイに代表される美しい海と砂浜、クローブをはじめとするスパイス、前回紹介したストーンタウンの街並みが有名です。現地の人が、ホテルの掃除の仕事に行って、観光客の置いて帰った日焼け止めや歯磨き粉を、何か分からず持って帰ってくるなんてこともよくあります。

自分で編んだ帽子をかぶる女性

「フィールド言語学」に取り組む際は、研究対象となる言語だけでなく、フィールドの環境、歴史や政治、人々の暮らしにも注意深く目を向けなくてはなりません。なぜ、そんな必要があるのかについては、次回以降、少しずつ話していきたいと思います。

コラム2:「アッサラームアライクム」はスワヒリ語?

本文中で、「アッサラームアライクム」などのアラビア語の挨拶を紹介しましたが、スワヒリ語の語彙の中には、アラビア語由来のものがたくさんあります。実は、第一回のコラムで紹介したサファリ (safari) も元々はアラビア語です。以前、ザンジバルの中学生たちがスワヒリ語(国語)のテスト勉強をしているところをのぞいたことがあるのですが、興味深いことに、英語由来の語は外来語とみなされている一方で、アラビア語由来の語の多くは、外来語とは認識されていませんでした。彼らにとって、アラビア語由来の語というのは、私たちにとっての漢語のようなもので、より深くスワヒリ語に根差しているのかもしれません。

* * *

[注]

  1. ザンジバルを構成するウングジャとペンバの合計。2012年タンザニア国勢調査//www.nbs.go.tz/(最終確認日 2017年10月29日)を参照。
  2. アメリカ国務省の報告https://www.state.gov/j/drl/rls/irf/2007/90124.htm/(最終確認日 2017年10月24日)を参照。
  3. タンザニアの大陸部から出稼ぎに来ているマサイ人はこの限りではないと思われる。
  4. 他の国や地域で、この表現は守られない約束の際に使われることも多いようだが、ザンジバルでは、この表現の有無と約束が守られるかは関係ないようである。
  5. ちなみに、現地の人曰く、一番儲かるのは「政府の仕事」(公務員)らしい。
  6. アジアやヨーロッパへ輸出され、化粧品や歯磨き粉の原材料として使われる。ザンジバルで海藻を育てている人たち自身は、どのような目的で使われるのか必ずしも正確に理解しているわけではなさそうである。//www.bbc.com/news/world-africa-26770151(最終確認日 2017年10月24日)を参照。

筆者プロフィール

古本 真 ( ふるもと・まこと)

1986年生まれ、静岡県出身。大阪大学・日本学術振興会特別研究員PD。専門はフィールド言語学。2012年からタンザニアのザンジバル・ウングジャ島でのフィールドワークを始め、スワヒリ語の地域変種(方言)について調査・研究を行っている。

最近嬉しかったことは、自分の写真がフィールドのママのWhatsApp(ショートメッセージのアプリ)のプロフィールになっていたこと。

編集部から

今回はザンジバルの人々の宗教となりわいについて紹介していただきました。次回からは調査準備編ということで、古本さんの荷造りの方法を教えていただきます。ザンジバルでの長期滞在に必要なものは何でしょうか?そして、研究室を離れた調査には何が必要でしょうか?