人名用漢字の新字旧字

第101回 「晒」と「曬」

筆者:
2015年12月10日

旧字の「曬」は「日にさらしてキレイにする」意味の文字で、音は「サイ」あるいは「シ」、いわゆる会意文字だと考えられますが、「麗」が音を表すとの説もあり、その場合には形声文字だと考えられます。新字の「晒」は、音の「サイ」を同音の「西」で表し、それに「曬」の左半分(日へん)をくっつけた、いわゆる形声文字だと考えられます。

昭和21年11月5日、国語審議会は、文部大臣に当用漢字表1850字を答申しました。当用漢字表には、しかし、新字の「晒」も旧字の「曬」も含まれていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり新字の「晒」も旧字の「曬」も含まれていませんでした。昭和23年1月1日、戸籍法が改正され、子供の名づけは当用漢字1850字に制限されました。この時点で、新字の「晒」も旧字の「曬」も、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。

半世紀後の平成12年12月8日、国語審議会は表外漢字字体表を答申しました。表外漢字字体表は、常用漢字(および当時の人名用漢字)以外の漢字に対して、印刷に用いる字体のよりどころを示したもので、1022字の印刷標準字体が収録されていました。この中に、新字の「晒」が含まれていました。印刷物には、旧字の「曬」ではなく、新字の「晒」を用いるべきだ、と、国語審議会は文部大臣に答申したのです。

平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「晒」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無かったものの、JIS第1水準漢字で、漢字出現頻度数の結果が502回だったので、人名用漢字の追加候補となりました。一方、旧字の「曬」は、やはり出生届を拒否された管区は無く、JIS第4水準漢字で、漢字出現頻度数の結果が0回だったので、人名用漢字の追加候補になりませんでした。

平成16年6月11日、人名用漢字部会は、578字の追加案を公開しました。この578字の中には、新字の「晒」が含まれていましたが、旧字の「曬」は含まれていませんでした。平成16年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申し、9月27日の戸籍法施行規則改正で、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、新字の「晒」は人名用漢字になりましたが、旧字の「曬」は人名用漢字になれませんでした。

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「晒」に加え、旧字の「曬」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「晒」はOKですが、旧字の「曬」はダメなのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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