地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第192回 井上史雄さん:グーグルマップにみる大阪方言「マイド」の世界進出
Global advance of Osaka dialect “Maido” according to Google Maps

筆者:
2012年3月10日

女優淡島千景(あわしま ちかげ)さんが亡くなりました(2012年2月)。代表作「夫婦善哉(めおとぜんざい)」(1955年)では、淡島さん一人が東京っ子で、ほかはみんな関西人だったので、共演の浪花千栄子(なにわ ちえこ)さんから大阪弁を教えてもらったそうです。大阪弁については、映画の世界で早くから「方言リアリズム」があったのです。テレビ、NHK連続ドラマの「おはなはん」(1966)の伊予弁は、先駆者を持っていたわけです。

今でも日本の方言の中で大阪ことばが一番元気です。大阪のみやげ品で方言を使ったものが増えているし、マスコミでも全国に大阪弁が流れます。また、国外でも使われています。「Okiniおおきに」という店が海外にもあることは、第127回で紹介しました。

今回はグーグルマップで「Maido まいど」を調べてみました。図のように主にアメリカ、ヨーロッパとアジアに見られます。Okiniとそっくりです。店名として使われることは、地図の左側の欄で見られます。この店名を見て、日本人は関西系の店で庶民的な雰囲気だと、判断するでしょう。大阪弁の経済効果です。実際は分かりませんが。

【図 グーグルマップの「Maido まいど」】
【図 グーグルマップの「Maido まいど」】

グーグルインサイトはもっと強力で、国ごとの数値のエクセル集計ができます。これを解説した論文が、『明海日本語』17号に出ます。3月末にはインターネットでも読めますから、ご興味のあるかたは検索してください。

また、日本の方言店名の世界展開について、英語論文がインターネットジャーナルDialectologiaに載りました。画像が多いので、ダウンロードに時間がかかります。残念。

www.publicacions.ub.edu/revistes/ejecuta_descarga.asp?codigo=725
(PDFファイルダウンロード〔10.2MB〕)

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。