戦前の方言絵はがきでは、各地の様々な場面のことばが描きだされています。今回は本州北端青森県の教室場面を取り上げましょう【図1】。この絵はがきはよく売れたようで、袋の色が違うセットがあります。第二輯以降も出たはずです。青森県の方言絵はがきは、戦後も色々出ました。それだけでなく方言のれんや方言手ぬぐい、方言茶わんなど、各種の方言みやげも多く出ました。戦前の方言絵はがきは、各地の「買える方言」を典型的に示す働きがあるのです。
文字部分には、以下のように書いてあります。
農山村の小學校
先生「チョサグ、ソゴ、ヨメヂャ」
長作 そこを 讀みなさい
生徒「ヘンヘ、ワ、ヨメネ」
先生 私は 讀めません
先生「ナスネ、ヨンデ、コネバ」
何故、讀んで 來ないのか
生徒「ヨンベラ、ドド、ド、フトヅネ、
昨晩 お父さん と 一所に
ナワ、ナタ」
繩を なひました
先生「ホンダナ、スタラ、トダロ、ヨメ」
さうか そんなら 藤太郎 讀みなさい
生徒「ワモ、ヨメネ」
私も 讀めません
先生「ドステセ」
何故ですか
生徒「キナ、アバド、ハダギサ、ヅギエモ、
昨日 お母さんと 畠へ 里芋を
ホネ、エタ」
掘るに 行きました
生徒の方言のきつさもさることながら、先生が方言で話しかけているのも面白いところです。また「読め」という命令形をそのまま使っています。今だと、先生は共通語を使うし、「読みなさい」「読んでください」などと言うでしょう。
また最後の行の方言「ホネ」の訳は、「掘るに」になっています。誤植ではなく、今も東北地方各地で使われる言い方です。当時は正しいことばと思われたのでしょう。その後共通語と同じ「掘りに」が広がりました。
この方言絵はがき1枚だけからでも、もっと色々なことを読み取れますが、今は省略します。
方言絵はがきは、第222回、227回、232回にも扱われています。これまで登場した方言絵はがきも、第222回からクリックでたどれます。