方言エールのまとめの最終回です。節や写真の番号は,第226回からの通し番号です。
[4]方言エールの類型:これまでの例から,方言エールは,他の拡張活用法と違って類型化され,「エール部+地名」となっています。地名の使用は,この用法が特に地域と一体化している証しです。 ~類型などの特殊性は,方言景観について継続的に記録しているからこそ,全用法のなかで位置づけることができました~
方言エールは,[1]のとおり,具体的内容よりも方言の使用自体が重要で,エール部は状況もよく表現しています。[3]の(ア)や(イ)は,地域内での使用なので,勧誘が基本です。「おらもがんばる」は意志のようですが,「――も」により勧誘の意となっています。同(ウ)では,発信者から被災民への激励から「けっぱれ」など命令表現が基本です。「まげねど」は表面では意志ですが,“皆さんも一緒に”の気持ちです。「c がんばっぺ」は勧誘ですが,仙台から同じ宮城県への派遣なので,外部からというより,地元で一緒に頑張ろうとの意です。多くの用例に感嘆符「!」が用いられているのも目立ちます。
(写真はクリックで他の例も)
[5]エール部の使用方言:[3]の各例は,発信者がどの地方の人でも,受け手の気持ちに寄り添うよう,被災地の方言を使っています。発信者側の方言を使った例もあります【写真12】。
[6]方言エールの発展:方言エールは,震災直後,また,のちの数カ月間に,地域住民の全く純粋な感情から湧き出てきましたが,その後,応用的利用もなされました。これにより,初めは地域内部に向けていた方言エールを,広く外部に示し,被災地住民の精神を他地域に伝えています。方言エールの応用方式には2種類あります。
《第1応用》方言エールを商品に貼ったり,方言みやげ・グッズに提示したりして,商業的利用にした応用方式(販売目的のTシャツやステッカー,ボールペンなど)です。価格を決めて店舗等で販売します【写真13】。ただし,業者の作った製品がすべてこの方式なのではありません。仲間内で,思いを共有するために注文して作った(販売しない)Tシャツなどは,方言エールの提示法のうちです。注意してください。
《第2応用》震災後の復興を願う行事などの方言ネーミングに方言エールを利用した応用方式です【写真14】。
以上のとおり,方言エールは,方言と地域の人々の結び付きや地域語の底力を,明確に示してくれました。