1970年代後半にカタルーニャ語(Català カタラン語)は、スペインの自治州であるカタルーニャ州【図1】の公用語として認められました。バルセロナ大学の学生たちにカタルーニャ語の方言について質問してみたところ、街角の表示などでは標準語しか使われていないという答えでした。一方、日本語の方言は看板やポスターなどの表示でよく見かけます。でも調べてみると、カタルーニャ語の方言も街角で使われています。
(図はクリックで拡大)
カタルーニャ語の「子ども」を表す方言に“xiquet(シケット)”という言いかたがあります。“xiquet”の“xic”は、Googleの翻訳によると「少し」という意味です。それに“-et”という小さいことを強調する指小辞がついて“xiquet”となり、12,3歳くらいの子どもを指します。
Google maps で見てみると、72件のヒットがありました(2013年5月5日調べ)。バルセロナから南へ行ったバレンシア州の方言です。例えば“carrer xiquet(子どもの通り)”や“Els xiquets(子どもたち)”という文具店の名前などに使われています。
方言地図【図2】に示されている語形(赤字)はカタルーニャ語ですが、すべて「子ども」という意味です。カタルーニャ州の州都バルセロナでは、主に標準語の“nen(0歳から12歳以下の子ども)”が用いられています。“minyó(13歳くらいから17,18歳まで)”と“xicot(19歳くらいの子ども)”は方言です。“-ot”は指小辞の逆で、大きいことを強調するとき付きます。
カタルーニャ州北部と、地中海のマヨルカ島に“nin(12、3歳の子ども)”が分布しています。マヨルカ島の子どもの教育センターで¡Bienvenido a la escoleta Nins i Nines!(学校へいらっしゃい。男の子たちと女の子たち!)”と“Nins(ninの複数形・ここでは男の子の意味)”を使っている例があります(//ninsinines.es)。
日本語でも一つのことばをとりあげて地域差を調べるとカタルーニャ語のような地図ができます。例えば「こども」を考えると、「お子たち」「おちびさん」「ちびっこ」などたくさんの言いかたがあります。それを地図にマークや色などで書き込むと分布の様子が見えます。
方言地図【図2】は友人のマリア・ピラル・ペレア・サバテールさん(Maria Pilar Perea Sabater教授・バルセロナ大学、国際方言学会会長)が作ったものです。分布とことばの使い分けについて情報をいただきました。
なお「カタルーニャ」は、ジョージ・オーウェルの小説名では『カタロニア賛歌(Homage to Catalonia)』と訳されています。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。