♪「夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る……」 文部省唱歌「茶摘み」は、日本の今頃の風景を描いた曲ですが、数字の「八十八」は立春から数えた日数で、他に台風がよく来るとされる「二百十日、二百二十日」なども同様です。
ことしもまた新茶の出回る季節を迎えました。近年、お茶はペットボトルやボトル缶に入ったものが自動販売機でも売られており、いつでもどこでも手軽に買って飲めるようになりました。しかも夏は冷た~く冷やしたものが……。
大分には『おおいたっ茶』、宮崎には『おいしっ茶ね。』という名前のお茶があります。
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大分のそれは、「おおいた」と「茶」の間にある促音の小さな「っ」にご注目。促音がなければ単に「大分のお茶」だというだけのことですが、この「っ」があることで、実は方言にちなんだネーミングであることがわかります。
その意味あいは〔大分(産)だってば!〕と、大分で作られたお茶であることを強調した表現になっています。
共通語の「~だってば」は、〔~だと言えば〕の転じたものですが、大分の方言の場合もこの同じ〔~だと言えば〕を原形として説明することができます。
大分の方言では、引用の「と」が、「チ」に変わります。例えば友達に〔先生が職員室に来い、と言ってたよ〕という場合、「先生ガ 来イ(ッ)チ 言イヨッタ デー」となります。
また〔言えば〕は「言ヤー」になります。(cf. 共通語でも「ああ言えばこう言う」を「ああ言やあこう言う(=人の言うことを素直に聞かない、文句の多いやつだ)」と言います)
大分 チ 言エバ > 大分ッチ 言ヤー > 大分ッチャ
という過程を経てできたのが、『おおいたっ茶』だというわけです。
もう一方の宮崎の『おいしっ茶ね。』の「ちゃ」ですが、同じ「ちゃ」でもこれとはまた少し違った説明が必要です。
宮崎県など九州の広い範囲で、共通語の「大きいのがいい、安いのがいい」などの「の」=専門用語では「準体助詞」つまり「体言(もの・こと)に準ずる助詞」と呼ばれます=は、「ト(またはそれが変化した)ツ」で表現します。
ですから、こちらの場合には「おいしい+ト(ツ)+じゃ+ね」〔おいしいんだね〕を原形として考えて、
美味シイ ツ ジャ ネ > 美味シ ッ チャ ネ
という過程を経てできたと説明することができます。
宮崎県は南隣りの鹿児島県に近づくほど長音が短くなる傾向がありますから、「美味しい」は「オイシ」と短くなりやすいのですが、その点なども考え合わせると、地元の方言を踏まえた、なかなか芸の細かいネーミングです。
なお、最後に「ね。」と句点が付くのは、アイドルグループの「モーニング娘。」のようなものでしょうか。
この2つのお茶を手にして見ているだけだと、以上のような“方言がらみのネーミング”だとは、ちょっと気づかないかもしれません。特に地元以外の人たちにとってはなおのこと。
以上、お茶を濁さず、きちんと説明したつもりですが、わかりやすい解説になっていたでしょうか?