方言みやげには国による違いがあります。ずっと前に留学生に尋ねたら、「タイには方言みやげはない」という答でした。今回、タイ北部の古都チェンマイに行ったらありました。バンコクからの留学生が知らなかったのは、みやげものが最近できたからでしょう。
言語観察のために、チェンマイの夜市に行きました。店頭のシャツに見慣れない文字が書いてありました。「何ですか」と聞きましたが、「分からない」という無責任な答え。円形を多く使うところは、ビルマ(ミャンマー)の文字に似ています。昔のタイ文字かと思って、実用も兼ねて買いました。暑いので翌日さっそく着て街を歩いていたら、話しかけてきた人がいました。「知っているか?これはタイランナーだ」といいます。聞いたことがありません。チェンマイの昔の文字なのでしょうか。
その夕方別の夜市に行ったら、黒のTシャツを売っていました。ランナータイと銘打って、字の読み方も書いてあります。別の店でも売っているかと歩き回って、戻ろうとしましたが、どの店だったかたどれなくなって、結局買いそびれました。残念です。
博物館で分かりました。ランナー文字だったのです。チェンマイ付近はかつてタイ王国と別のランナー王国でしたが、近代にタイ王国に統一され、王族もタイ王室に組み込まれました。近代の政策で、学校でタイ語・タイ文字を教えたことについても、展示がありました。タイ語と別の言語か、判別に迷いますが、タイ語とお互いにことばが通じるので、タイ方言の扱いです。シャツは「方言」みやげと言っていいでしょう。もっともこのシリーズは「地域語」についてですから、学問的に言語か方言かの問題は避けて通れます。
隣国インドネシア、バリ島のバリ文字についても似ています。文字は寺院で見かけました。中年のガイドさんの話によると、「昔はインドネシア語だけを教えた時期があったが、今は小学校でふたたびバリ語とバリ文字を教えるようになった」ということでした。しかしみやげ店を丹念に見て回り、デジカメのバリ文字を見せて探し回りましたが、バリ文字のみやげものはありませんでした。文字のみやげを作らなくとも、手工芸品などが十分に売れるのでしょう。やっぱり「ことばには経済がからむ」と、意を強くしました。みやげものがあってもうれしいし、なくてもうれしい。楽天家というべきでしょうか。