第226回,第231回,第236回の3回にわたり,「方言エール」のまとめをしました。それを基本用法と応用的利用に分けて示したのが【表1】です。
東日本大震災から2年が経ちました。震災時の方言エールも,だいぶ様変わりしてきました。最近は,基本用法そのものも,当初の用法から,提示の状況や使用の動機が変わってきています。
震災時の方言エールは,はじめ,避難者個人が,同じ避難所にいる同じコミュニティーの,同じ方言を使う人々へ向けたものでした(基本用法 ア)。震災直後は,具体的になすべきことが分からず,家族の行方,家や家財のことでも大きな不安がありました。そういうなかで出てきた方言エールでした。「気持ち【だけは】確かに持って」という互いの「掛け声=エール」が限界の状況だったのです。つまり,その目的は,「ふるさとはなくなっていない(自分たちのなかに方言が生きている)のだから,命をつないでいこう」と,励まし合うことでした。
地域住民の純粋な感情から湧き出たものが,その後,日に日に広まっていきました。3回の「まとめ」のとおり,(イ)企業・行政や(ウ)救援隊でも方言エールを示し合いました。このころの目的は,その場にいる人全員で「生存の意思」を共有することでした。
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それから時が移りました。最近は,目的が「復興の意思」の確認に推移しています。震災後数カ月から見ると,全体の数は減ってきています。そのなかで,方言エールの基本用法が,大きく目立つように掲げられています。復興の意思や作業の精神的支柱の確認のため,街中やタクシーの車体,また,工事現場で,よく目に入ります。第236回でまとめた2種の応用的利用も増えています。
今回,そのなかから,5箇所の例を紹介します。岩手県では,宮古市【写真1】,山田町【写真2】,釜石市鵜住居(うのすまい)地区【写真3】,釜石市(中心部)【写真4】,また,宮城県気仙沼市の例【写真5】です。いずれも,基本用法(イ)を受け継いでいます。
震災時の方言エールは,はじめ,まったく素朴な動機から出ました。「ふるさとはなくなっていない,しっかり生きていこう」との性質でした。そこから最近は,「ふるさとで生活を再建する,自分たちを支えてくれたふるさとを今度は自分たちが再生するのだ」という決意表明になっています。これらの用例に託された被災地再建の意思を,よく理解したいと思います。