(菊武学園タイプライター博物館(6)からつづく)
「North’s Typewriter」は、1892年から1905年頃にかけて、ロンドンのノース・タイプライター・マニュファクチャリング社が製作したタイプライターです。発明者はダン(Morgan Donne)とクーパー(George Beverly Cooper)の2人ですが、製作資金は「硝酸王」ノース(John Thomas North)が出資したことから、「North’s Typewriter」と名づけられています。
「North’s Typewriter」の特徴は、プラテンの向こう側に屹立する39本のタイプバー(活字棒)です。タイプバーはそれぞれがキーにつながっており、キーを押すと対応するタイプバーが打ちおろされて(ダウンストライク式)、プラテンの上に置かれた紙の上に印字がおこなわれます。紙の上に印字がおこなわれるので、打った文字がその瞬間に見えるのです。ただし、プラテンがキーボードとタイプバーに挟まれているため、紙を丸めてプラテンの手前にセットする必要があります。また、打った後の紙はプラテンの向こうに吸い込まれていくため、実際には1~2行分しか見えない上に、打った後の紙を取り出すのが面倒という弱点があります。
菊武学園タイプライター博物館が所蔵する「North’s Typewriter」は、いわゆるQWERTY配列で2段シフト39キーのモデルです。左下の「UPPER CASE」キーを押すと、プラテンが手前に移動して、大文字が印字されるようになります。「UPPER CASE」キーを離すと、プラテンが奥に移動して、小文字が印字されるようになります。この機構により、39キーで78種類の文字を打ち分けることができます。
菊武学園タイプライター博物館の「North’s Typewriter」には、「2246」という製造番号が記されています。「North’s Typewriter」は年間300台程度の生産量だったことから、この「North’s Typewriter」は、1899年あるいは1900年の製造と推測されます。ノースは1896年に亡くなっていますので、この「North’s Typewriter」は、ノースの死後に製造された「North’s Typewriter」ということになります。