方言メッセージのいくつかの用法のうち,最も多用されるのが歓迎の方言メッセージです。歓迎の方言メッセージと言いますと,基本が観光客や地元のお客さんが対象ということになっています。この連載でも,近くは第196,199,201,206回など,多くの回で取り上げています。ただ,その土地に来るのは,何も観光客だけではありません。転勤などの転入者もいます。今回は,そういう転入者対象の歓迎方言メッセージの例を,私の住む,岩手県宮古市から取り上げます。
まず,マリンコープDORAです。「コープ」とあるように,生活協同組合の施設です。同店内の告知ポスターに方言メッセージがあり,「転勤で就職で 宮古に引っ越して、こられた皆さん『よぐおでんしたぁ~(^0^)』」と書かれ,転入者対象であることを明確にしています【写真1】(2008年5月撮影)。すぐ下に「宮古弁で『よく、いらっしゃいました』」と解説も付けています。ここで重要なのは,「あなたも生協の仲間になりませんか??」という本題やそれに続く説明よりも上に,方言メッセージが書かれていることです。つまり,まずは方言メッセージでお客の注意を引きつける目的があるわけで,絵や写真を使ったポスターでの絵や写真の役割を,方言が担っているわけです。
DORAの店舗の性格や立地から,観光客の来店は,あまり想定されていません。宮古市は陸中海岸国立公園を抱える観光地なので,観光客向けの商業施設は他にあります。DORAには,生協以外にも,民間店舗が多く出店しています。岩手生協の紹介サイトhttp:http://www.iwate.coop/shop/shoplist/store.php?shop=183に案内があります。
もう1例は,市役所(宮古保健センター)です。乳幼児と妊婦の転入者への健診や予防接種等の案内書面です。こちらも,「宮古市に転入されたお子さんと妊婦さんへ」という標題よりも上に「ようこそおでんした!」の方言メッセージを掲げています。
なお,宮古保健センターは,庁舎が東日本大震災の津波の直撃を受けて使用不能となりました。現在は,宮古市中央公民館に事務所を設置し,乳幼児健診等は宮古市総合体育館の施設を利用しています。
《謝辞》
宮古保健センター案内書面の取材には,宮古市役所総合窓口課主任:伊藤 眞 氏のご協力を戴きました。ここに記し,あらためて御礼申し上げます。