地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第160回 大橋敦夫さん:もう一つの「方言エール」

筆者:
2011年7月23日

東日本大震災による被災地の様子(第151回)や、それに関連した方言メッセージ(第146回)・方言エール(第156回)が紹介されています。

こうした現地での例に加え、被災された方たちを受け入れている地域での、方言を活用した取り組みをご紹介しましょう。

にいつ子育て支援センター・育ちの森(新潟市秋葉区)では、子育て支援情報誌「Cocokara(ここから)」を発行中。このたび、新潟県外からの転入者に好評を博してきた方言解説ページ(各号連載)を集成、大震災後に新潟県に避難してきた方々を対象に『新潟の方言講座&子育てミニ情報』(A4判、27ページ)を作製し、配布しています【写真1】。

(写真はクリックで拡大します)

【写真1 「新潟の方言講座」と「Cocokara」】

方言講座は、

【かたる】子どものおもりをする
  例 おれがかたるて。
 〈訳〉 私が子どものお守りをしますよ。

のように構成され、かわいいイラストが誌面を楽しいものにしています【写真2】。

【写真2 「新潟の方言講座」の「か~こ」のページ】

『新津市の方言』(新津市図書館発行)を参考資料に、120語が50音順に紹介されています。

「イントネーションがわからないときは育ちの森スタッフまでお問い合わせください」
の注記も添えられています。

方言講座(10ページ)に続く後半は、避難所周辺のお薦めスポット・医療機関・授乳中の母親向けの体操などを紹介しています。

この冊子を手にされた方々の反応について、お問い合わせをしたところ、

 「福島には、こんな方言があるよ」
  「新潟の○○という方言は、福島では○○と言うよ」
  「イラストも楽しく笑えて良かった」

など、上々のようです。

作製・配布にあたられた椎谷照美さん(育ちの森館長)は、

「コミュニケーションをとるきっかけになることを意図し、避難されてきた方が、近隣の公園などを知ることでリフレッシュでき、少しでも新潟に親しみをもってほしいと願い発行しました」

と、話されています。

読者の皆様、同様の取り組みをご存知でしたら、お知らせください。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。