地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第161回 田中宣廣さん:「復活を期す方言の有効活用例」

筆者:
2011年7月30日

第151回で「東日本大震災の被害」を報告しました。

それらのなかにも,再起を期すものや現実に活動を再開したものがあり,今回は,それらの例を紹介します。

(写真はすべて筆者撮影)

【写真1 おらほの味噌】
【写真1 おらほの味噌】(クリックで全体表示)
【写真2 南リアス線のケセン語メッセージ】
【写真2 南リアス線のケセン語メッセージ】
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【写真3 シートピアなあど】
【写真3 シートピアなあど】
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【写真4 靴店跡で「なあど」の名で再開】
【写真4 靴店跡で「なあど」の名で再開】
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【写真5 仙台いちご】
【写真5 仙台いちご】
(震災前の2009年に撮影;クリックで全体表示)

[1]岩手県陸前高田市八木澤商店「おらほの味噌」【写真1】

第151回での被災状況の報告のとおり,同市は市内の平地部分が壊滅してしまいました。

そのなかで同社は,同業者の支援も得て企業活動を再開しています。再開製品には高田松原約7万本のうち1本だけ残った希望の一本松をあしらった「がんばっぺし(GANBAPPESHI IWATE・RIKUZEN TAKATA)」の方言エールを着けています。

[2]三陸鉄道(南リアス線,第81回で紹介)【写真2】

同線も津波の被害を受けました。そのなか,1編成が,鍬台(くわだい)トンネル(全長3,907m)に取り残されたため無傷で,6月24日,最寄りの吉浜(よしはま)駅(大船渡市)に回送されました。復旧には数年を要するということですが,同線は路線の大部分が高台を通り,津波被災地の全滅状態の鉄道では早い復旧が期待されます。

また,同回で紹介した恋し浜(こいしはま)駅(大船渡市)も高台に位置し,健在です。

[3]岩手県宮古市「シートピアなあど」【写真3】

方言ネーミングの複合施設です。「なあど」とは,同地の方言で「どうして」「なぜ」「どのようにして」という意味です。古代語の「なでふ」(読み方[ナジョー])に由来します。

同施設は海に面していて津波の被害は甚大かつ深刻です。それでも,従業員の的確な誘導により,従業員や客など全員が近くの高台に避難して人的被害はありませんでした。私のゼミの卒業生が従業員で,あと数分遅かったら危険であったとの話でした(彼女の実家は流失)。

施設全体は営業停止中ですが,そのなかの一部,農産物産直部門だけ,場所を変えて営業を再開しました【写真4】。

[4]宮城県「うまいっちゃ! みやぎ亘理 仙台いちご」【写真5】

方言メッセージ入りの亘理町(わたりちょう)と山元町(やまもとちょう)の名産のいちごです。産地の94%と箱詰め場(亘理町)が壊滅的被害を受けました。しかし,被害を免れた地区を中心に出荷を継続しています。詳しくは,宮城県亘理農業改良普及センターの「仙台いちご出荷継続のニュース」で報告されています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。