これまでの連載で取り上げられることのなかったアイテムとして,地域通貨に目を向けてみます。地域通貨とは、『大辞林 第三版』(三省堂)によると「限られた地域や共同体だけで利用できる通貨や通貨システム」のことです。通貨の愛称や単位の命名に,地域の方言を利用している例が十数年前から見られます。長野県内の例をあげてみます。
信州木の駅プロジェクトたつの実行委員会(上伊那郡辰野町)
地域通貨「木判(こばん)」の単位「beyta(ベイタ)」
「ベイタ」とは,なたで切れる程度の太さの木を意味する当地の方言です。地元の山から間伐材を切り出し,「木の駅」に持ち込むと木判がもらえます。木判は,地元の商店街や飲食店で使えます。
デイサービス施設「美事(みごと)」(松本市)
地域通貨「ずーら」
第300回「長野県方言の拡張活用例ベスト3」・第130回「ずら(その2)」・第25回「ずら―長野・山梨・静岡を結ぶきずな」で取り上げた「ずら」が応用されています。リハビリにつながる気軽な運動をした施設利用者が対価として得ます。1,10,100,500,1000の5種類があります。【写真】
利用者の方々の評判も上々ということです。施設内通貨というアイディアに,当地で親しまれている方言「ずら〔だろう。でしょう。(語尾につけて用いる)〕」を用いて命名したことが当たっているようです。
インターネット上でも,「ずーら」と同様の地域通貨が見られます。662件(2011年1月現在)の中で,現在も通用していると思われるものが11種(上記を入れて13種)見つかりました。大部分が中部地方です。どうしてでしょう。
「やっぺ」〔しましょう〕福島県いわき市
「らて」〔~だと。~だって〕新潟県三条市
「キトキト」〔新鮮(精力的なこと)〕富山県富山市
「きまっし」〔来ましょう(「まっし」は優しい命令や勧誘)〕石川県金沢市
「ござっせ」〔いらっしゃい〕石川県能美市
「だら」〔だろう(推量表現)〕静岡県浜松市
「だら~」〔だろう(推量表現)〕愛知県豊川市
「じゃん・だら・りん」〔~じゃないか(同意確認)・~だろう(推量)・~なさい(勧告) (三河地方を代表する方言)〕愛知県豊橋市
「助け合いチケットじゃん」〔~じゃないか〕愛知県三好町
「だんだん」〔ありがとう〕愛媛県関前村
「よかよか」(〔良い〕を重ねたもの)福岡市博多区