山梨県甲府市出身の村岡花子を主人公とする『花子とアン』が,2014年度上半期のNHK朝の連続テレビ小説で放送されました。村岡はL.M.モンゴメリ著『Anne of Green Gables(赤毛のアン)』の翻訳で知られています。『花子とアン』の平均視聴率は関東地区22.6%で,過去10年で最高だったそうです(ビデオリサーチ調べ)。
甲府市内には「花子とアン」推進委員会が作成した「やまなしへようこそ。わたしたち「こぴっと」します!」と書かれた幟が立っています〔「こぴっと」=シャキッと,しっかり〕。今年は,以前訪れたとき(2009年1月)より,甲府市内の方言のポスターやパンフレットの数がかなり増えていると感じました。
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【写真1】は,同推進委員会が行っている「甲州弁No.1決定戦投票」です。推進委員会のホームページの結果(中間発表)によると「こぴっと」,「いいさよぉ」〔いいんだよ〕,「てっ」〔えっ,あら〕が上位を占めています。「いいさよぉ」も「てっ」も,なぐさめの表現やあいづちとしてコミュニケーションを取りやすくするための表現です。「こぴっと」は地域の人の心情を束ねるいわば合言葉の方言と言えます。どの表現も人々の心をつなぐ作用をする表現です。同じことばを使うことで集団の所属意識が強まります。価値観の多様化の中で,世代を超えて方言が活躍しています。
これに関連して,南巨摩郡(みなみこまぐん)の山梨県立峡南高等学校では,おもてなしのための「こぴっと!! 6種類」甲州弁コースターを作成販売しています【写真2】。同校の「もてなすプロジェクト」の一環です。その目的を,「お客様とのコミュニケーションを取りやすくする」,「山梨に興味をもってもらう」と説明しています。
ほかに『おもてなしブック』(第28回国民文化祭山梨県実行委員会2013),「甲州弁トークショーこぴっといくじゃん」〔シャキッといこうよ(「――じゃん」は意志や勧誘の文末表現)〕(2014年9月開催)などでも,国中地方の方言が取り上げられています。
山梨県では,富士山の世界文化遺産登録をはじめ,甲府市新庁舎,山梨県庁舎防災新館の落成など,まちづくりのハード面が充実しました。山梨県防災新館の1階に配置された「情報発信・賑わい創造」が目的の「やまなしプラザ」の運営など,ソフト面も充実してきています。このような状況にあって,まちづくりに郷土色を添えるのが方言です。方言はマスメディアの追い風に乗って人々の心と心をつなぐ役割を果たしています。
これまでの記事では,「第21回 テレビの方言活用」,「第230回 週末は山梨にいました。―山梨の方言グッズ事情2012―」,「第256回 「じぇじぇ!」」,「第288回 NHK仙台放送局の方言活用」などが関連しています。