タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(34):Harris Visible Typewriter No.4

筆者:
2018年6月14日
『Popular Mechanics』1914年4月号

『Popular Mechanics』1914年4月号 (写真はクリックで拡大)

「Harris Visible Typewriter No.4」は、ハリス(De Witt Clinton Harris)率いるハリス・タイプライター社が、1912年頃に発売したタイプライターです。販売は、シアーズ・ローバック社(Sears, Roebuck & Company)が独占しておこなっており、全米に渡ってカタログ通信販売がおこなわれていました。

「Harris Visible Typewriter No.4」は、28キーのフロントストライク式タイプライターです。各キーを押すと、対応する活字棒(type arm)が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の状態では小文字が印字されますが、「CAP」キー(キーボード下段の左右端)を押すと、タイプバスケットが持ち上がって大文字が印字されるようになります。また、「FIG」キー(中段の左右端)を押すと、タイプバスケットが下がって記号(あるいは数字)が印字されるようになります。キーボード上段のさらに右上の端には「SHIFT LOCK」キーが準備されており、「CAP」キーもしくは「FIG」キーを押しっぱなしにできます。

「Harris Visible Typewriter No.4」のキー配列は、いわゆるQWERTY配列で、各キーに大文字・小文字・記号(あるいは数字)の3種類の文字が配置されています。上段の10個のキーには、大文字のQWERTYUIOPと、小文字のqwertyuiopと、数字の1234567890が、それぞれ配置されており、その右側に「BACK SPACER」キーがあります。中段の9個のキーには、大文字のASDFGHJKLと、小文字のasdfghjklと、記号の@$%^*=/¢#が、それぞれ配置されており、左右の端には「FIG」キーがあります。下段の9個のキーには、大文字側にZXCVBNM&.が、小文字側にzxcvbnm-,が、記号側に()?’”:;_.が、それぞれ配置されており、左右の端には「CAP」キーがあります。ピリオドが重複して収録されているため、28キーで83種類の文字となっています。

この広告の後、ハリス・タイプライター社は、ウィスコンシン州フォンデュラックからイリノイ州シカゴへ本社を移し、社名もレックス・タイプライター社と改めました。レックス・タイプライター社となってからは、シアーズ・ローバック社向けの「Harris Visible Typewriter No.4」を製造しつつ、新たに「Rex Visible Typewriter No.4」を製造販売しはじめたようです。

 

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。