今回の「○」「×」「△」のたぐいは、漢字圏の中だけでは説明できない記号が含まれているようだ。
そこでアメリカの方にも、うかがってみた。少し前のことだそうだが、アメリカでは採点記号はそれほど標準化されていなかったという。正解は「チェックマーク」のような印で、「check, checkmark, tick」などと呼ぶ。なお、チェックマークのような形態をもつ記号そのものは、中国や日本でも「雁(かりがね)点」(レ点の元)として現れてはいた。
不正解は「×」と書くと、その形がローマ字の「x」に似るため、だいたい「eks」と発音し(crossとも)、また、「/」と書くと「slash, slashmark」というと思うとのこと。点数がないために「0」と書けば「zero」というそうだ。他のアメリカの方などは、間違った部分が「○」で囲まれる、ともいう。「×」は、宝物が隠してある目的地などを示すこともあるとのこと。なお、『新明解国語辞典』第6版には、アメリカでは、否定や伏せ字などの意味に「○」を用い、「×」は希望するものを選ぶことを表すという由、伝聞の形で記されている(p1198)。
アメリカでは、半分正解に対しては「1/2」のように書き、「half, half credit」などという。これは、東アジアではあまり見かけない。もちろん、その問題の満点の点数に合わせて、適当な数字を書く場合もあるとのこと。
「バークレーの日本語の授業で、日本から来た先生が正解に「○」を書いたのを見てびっくりする学生もたしかにいましたね。」
留学生の中には、返ってきた答案を見て、意に反して正解ばかり、あるいは不正解ばかりかと、さぞかしびっくりする者もいることだろう。実際に、アメリカに留学した韓国の方も、「0」と「○」とで書き順が同じ人もいるので、不正解に「○」が付いている、と最初は驚いたそうだ。ヨーロッパ、南米などでも全く同様なのであろうか。引用符「“ ”」や数字の桁の「 , 」区切りなど、国々で制度が異なっていることもあり、興味は尽きない。
ともあれ、中国や韓国の採点記号と日本のそれが微妙に違う原因が、欧米に求められることがうかがえるであろう。ここまでの4回の連載で出てきた、主な採点用の記号をまとめてみよう。
正解 | 半分正解 | 不正解 | |
---|---|---|---|
日本 | ○ | △ | × / |
韓国 | ○ | △ | / × |
中国 | × | ||
ベトナム | v đ | × | |
アメリカ | 1/2 | × / 0 |
このように採点記号は、国ごとに意外と違っていて、影響を完全には与え合わないものだ。アメリカで不正解の「0」は日本人には「○」に見えかねず、反対に日本の「/」はアメリカ人には正解の「チェック」に受け取られかねない。
なぜ、こうも入り組んでいるのだろうか。こうなると、それぞれの記号の歴史が気になってくる。明治の小学校などでは? 江戸時代の藩校や寺子屋などでは? そして中国や朝鮮、ベトナムの科挙制度では?
現代では、機械に解答の読み取りと採点を任せるマークシートがだいぶ普及してきた。そこには「△」も「」も与えにくい。こうした当たり前のものとして存在する事物の起源が、その展開の歴史を終えてしまう前に、私たち自身の手によって完全に明らかとなる日の来ることを願っている。