クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―

46 耳の文化と目の文化(15)-視覚的な特性(8)

筆者:
2009年4月6日

ある単語が名詞であるか否かという問題とは別に熟語における構成要素の単語が名詞であるか否かという問題がある。熟語は複数の単語から成り立っている句であるが全体としてひとつの意味をもっており、その構成要素の個々の単語はもとの品詞や意味が保持されている場合からそれらがもはや意識されない場合までいろいろな段階がある。

heute Morgen「今朝に」、letzten Endes「結局は」は全体として副詞句であるが、Morgen, Endは副詞的に使われた名詞という解釈で大文字で書かれる。

teilnehmen「参加する」、stattfinden「行われる」などのteil, stattなどはほんらい「部分」、「場所」を意味する名詞であり、nehmen, findenの目的語だったものだが、1語の分離動詞として認識されているので、その中の名詞的要素は小文字で書かれる。それに対し、Rad fahren「自転車に乗って行く」、 Maschine schreiben「タイプライターを打つ」などのRad, Maschineなどは熟語の要素として無冠詞になっているが、名詞としての意味がまだ意識されるので大文字で書かれる。

定冠詞+形容詞が名詞化され、前置詞や動詞の目的語になったり、2格形が副詞として使われた熟語は旧正書法では小文字で書かれたが、新正書法では名詞であることが明らかだとして大文字で書かれるようになった:im Allgemeinen「一般的に」、den Kürzeren ziehen「貧乏くじを引く」、des Öfteren「何度も」

Jung und Alt「老いも若きも」、Groß und Klein「大人も子供も」などの熟語も形容詞語幹を名詞化したものとして大文字で書かれようになった。ただ、von jung auf「若いときから」、durch dick und dünn「苦楽をくぐり抜けて」などの形容詞語幹も前置詞の目的語であるから名詞だと考えられるが、全体として副詞であるという理由で小文字で書かれる。

熟語の中の名詞が無冠詞の場合でも、in Bezug auf「…に関して」におけるBezugは名詞として意識されるので大文字で書くが、auf Grund「…に基づいて」はaufgrundと1語に書くこともある。また、aufs herzlichste/Herzlichste「心から」、bis auf weiteres/Weiteres「さしあたり」、von nahem/Nahem「近くから」などは中間的なものとして大文字でも、小文字でもよいとされている。

筆者プロフィール

『クラウン独和辞典第4版』編修委員 新田 春夫 ( にった・はるお)

武蔵大学教授
専門は言語学、ドイツ語学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員

編集部から

『クラウン独和辞典』が刊行されました。

日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

(第4版刊行時に連載されたコラムです。現在は、第5版が発売されています。)