【発言者】定延利之
友定さんのお話をうかがって,改めて文の構造について考えています。
実はこのところ,共通語についてですが,「構造上の大きな区切れの後の付属要素(コピュラや格助詞)は音調が低い」と言えないか,と考えています。
コピュラ(「だ」「です」など)について例を挙げると,「わ,人がいっぱいだなぁ」と言う場合は,平板型アクセントの語「いっぱい」に続く「だ」は高く発せられますが,「人がだなぁ,いっぱいだなぁ,入ってだなぁ,……」と言う場合の「だ」は,「いっぱい」に続くコピュラ「だ」も全て,低く発せられます。後者の場合,「いっぱい」と「だ」はあまり強く結びついておらず,両者の間には構造上大きな区切れがあるから,低いのではないかということです。たとえば「そことだね,うちでだね,打ち合わせをだね,……」「いや,社長とだ」「それも,高齢の親を置いて,だ」「スマホを見ながら,だ」「ちゃんと行っただなんて,嘘ばっかり」「あっかんべーだ」「いーだ」の「だ」,さらには「この空欄に埋まる動詞は,『行く』だな」の「だ」,「それでもう,ぐにょーってなっちゃったの」と言われて返す「それは確かに,ぐにょーだね」の「だ」も同様です。
コピュラは動詞には続かない,と言われ,確かに続きにくいと私も思いますが,その「無理」を押してつながることはあります。具体的には『田舎者』キャラの「行くだ」,『幼児』キャラの「行くでちゅ」,『上流マダム』キャラの「行くざます」,『侍』や『忍者』キャラの「行くでござる」,『平安貴族』キャラの「行くでおじゃる」,『薩摩隼人』キャラの「行くでごわす」などで,これらの「だ」「でちゅ」「ざます」「でござる」「でおじゃる」「でごわす」は皆低く発せられます。これも,「無理」を押してつながることが,大きな区切れを踏み越えてつながるということではないかと今考えています。
格助詞にも似たことが見られます。動詞に格助詞は続かないと言われることがありますが,この大きな区切れを越えて結びつく格助詞は低く発せられます。「行くがよい」「当たるを幸い」「行くに越したことは無い」「言うに事欠いて」,さらに「この国語辞典の第3巻は「乗る」から「巻く」までだ」などと言う時の格助詞「が」「を」「に」「から」「まで」は低く発せられます。
そこで,「行くぴょーん」「行くぷぅ」「行くきょ」などのキャラ助詞「ぴょーん」「ぷぅ」「きょ」ですが,「行く」との間の区切れはやはり大きそうなのに,コピュラや格助詞の場合と違って,これらの音調は低くはなくて,単独で発せられた場合と同じ音調ですよね。「兵庫県南部」の「南部」みたいな自立語なのかなぁ,そうすると「助詞」ではないから「キャラ助詞」は改名しないといけないのかなぁ,なんて考えています。
「おしんこ,ねーすかわ」の「わ」など,方言の文末に現れる,1人称代名詞由来のことばは,音調はどうなんでしょうか。