「Blickensderfer No.5」は、ブリッケンスデアファー(George Canfield Blickensderfer)が、1893年に発売したタイプライターです。筆者の調べた限りでは、ブリッケンスデアファー本人は「Blickensderfer No.5」の広告を制作しておらず、上の広告は、オハイオ州クリーブランドのオハイオ・サプライ社が独自に制作したものです。
「Blickensderfer No.5」の特徴は、タイプ・ホイール(type wheel)と呼ばれる金属製の活字円筒にあります。タイプ・ホイールには84個(28個×3列)の活字が埋め込まれていて、縦に並んだ活字3個ずつが、それぞれ28個の文字キーに対応しています。キーを押すと、このタイプ・ホイールが、回転しつつ、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。通常はタイプ・ホイールの上列にある活字(小文字)が印字されますが、キーボード左下の「CAP」キーを押すと、タイプ・ホイールが持ち上がって、真ん中の列の活字(大文字)が印字されるようになります。「FIG」キーを押すと、タイプ・ホイールがさらに持ち上がって、下列の活字(記号や数字)が印字されるようになります。
タイプ・ホイールの上列には、小文字の活字がzxkg.pwfudhiatensorlcmy,bvqjの順序に、上から見て時計回りに埋め込まれていて、tとeがほぼプラテンの側にあります。使用頻度が高い文字ほど、回転が小さくなるように並べられているのです。タイプ・ホイールの真ん中の列には、大文字の活字がZXKG.PWFUDHIATENSORLCMY&BVQJの順序に埋め込まれています。タイプ・ホイールの下列には、記号や数字の活字が-^_(./'"!1234567890;?%¢$)@#:の順序に埋め込まれています。
「Blickensderfer No.5」のキーボードは、ブリッケンスデアファー独特の配列です。キーボードの上段は、小文字側にzxkgbvqjが、大文字側にZXKGBVQJが、記号側に-^_()@#:が並んでいます。キーボードの中段は、左端の少し上に「FIG」キーがあって、小文字側に.pwfulcmy,が、大文字側に.PWFULCMY&が、記号側に./'"!;?%¢$が並んでいます。キーボードの下段は、左端の少し上に「CAP」キーがあって、小文字側にdhiatensorが、大文字側にDHIATENSORが、記号側に1234567890が並んでいて、tとeの間にスペースバーが伸びています。ピリオドがダブっているため、28キーで82種類の文字が搭載されているのです。
「Blickensderfer No.5」は機械式タイプライターであり、キーを押す力によって、タイプ・ホイールを回転させています。キーボード上段の文字に関しては回転が大きく、どうしても印字が遅くなってしまいます。それを多少なりともカバーするために、使用頻度の高い文字をキーボード下段に集め、回転を小さくしているのですが、スピードの遅さに関しては、どうにもならなかったようです。