タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(73):Royal Typewriter No.10

筆者:
2020年1月16日
『Saturday Evening Post』1916年1月15日号
『Saturday Evening Post』1916年1月15日号

「Royal Typewriter No.10」は、ロイヤル・タイプライター社が1913年に発売したタイプライターです。キーボードのすぐ奥に、金文字の「ROYAL」のロゴと、42本の活字棒(type arm)が、オペレータから見えるのが特徴です。

「Royal Typewriter No.10」は、42キーのフロントストライク式タイプライターです。扇状に配置された42本の活字棒は、各キーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の状態では小文字が印字されますが、「SHIFT KEY」(キーボード最下段の左右端)を押すと、全ての活字棒が全体的に下がって大文字が印字されます。また、左の「SHIFT KEY」のすぐ上には「SHIFT LOCK」キーがあって、「SHIFT KEY」を押しっぱなしにできます。タブ機構は非常に独特で、タブ・ラックと呼ばれる左右に長い棒が用紙ガイドの裏側にあり、そこにタブ・ストップを複数箇所、設定できるようになっていました。キーボード最上段の右端に「TABULATOR KEY」があり、これを押すと次のタブ・ストップまで移動する、という仕掛けでした。「TABULATOR KEY」のすぐ上のフロントパネルには「MARGIN RELEASE」があり、そのすぐ上には、インクリボンの赤・黒を切り替えるトグルスイッチがあります。

「Royal Typewriter No.10」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの最上段は、左端に「BACK SPACE」キーがあって、大文字側に"#$%_&'()*が、小文字側に234567890-が並んでおり、右端に「TABULATOR KEY」があります。次の段は、大文字側にQWERTYUIOP¼が、小文字側にqwertyuiop½が並んでいます。その次の段は、左端に「SHIFT LOCK」キーがあって、大文字側にASDFGHJKL:@が、小文字側にasdfghjkl;¢が並んでいます。最下段は、両端に「SHIFT KEY」があって、大文字側にZXCVBNM?.¾が、小文字側にzxcvbnm,./が並んでいます。数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。

「Royal Typewriter No.10」の輸入販売は、丸善が日本総代理店(朝鮮および満洲を含む)となっていました。ただし、下の広告写真によれば、丸善は「Royal Typewriter No.5」を販売の中心に据えており、「Royal Typewriter No.10」は高級機種としての扱いだったようです。

『學鐙』1914年6月号
『學鐙』1914年6月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。