(菊武学園タイプライター博物館(10)からつづく)
「Empire Typewriter」は、ボストンのキダー(Wellington Parker Kidder)が発明した「Wellington Typewriter」を、モントリオールのウィリアムズ・マニュファクチャリング社が1896年から1924年頃にかけてライセンス生産していたものです。キダーは以前「Franklin Typewriter」も製作していましたが、「Wellington Typewriter」(および「Empire Typewriter」)では、それとは異なるスラスト・アクションという印字機構を採用しています。
「Empire Typewriter」では、プラテンの手前に、28本のタイプバー(活字棒)が扇形に配置されています。タイプバーはそれぞれがキーにつながっており、キーを押すと対応するタイプバーが、プラテンに目がけてまっすぐ飛び出します。これがスラスト・アクションという印字機構で、印字はプラテンに置かれた紙の前面におこなわれます。紙の前面に印字されるので、打った瞬間の文字を、即座に確認できるのです。
活字棒には、それぞれ活字が3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により、84種類の文字が印字できます。「CAPS」を押すとプラテンが沈んで、大文字が印字されるようになります。「FIGS」を押すとプラテンがもっと沈んで、数字や記号が印字されるようになります。菊武学園タイプライター博物館が所蔵する「Empire Typewriter」では、28個のキーは、いわゆるQWERTY配列でした。スペースキーが逆T字形ではなく直線的なので、1904年以降に生産されたモデルだと推定されます。
菊武学園の「Empire Typewriter」は、残念ながら、あまりいい状態ではありません。各キーのうち、スラスト・アクションが正常に動作するのは、ごくわずかです。インクリボンを進めるための金属棒が、キーボード側に飛び出してしまっており、インクリボンが全く動きません。本体右側の「LOCK」キーは、本来は右端のマージンに関係するはずなのですが、これも動作しませんでした。