方言は近頃色々な場面で活用されています。これまでだれも思いつかなかった場面で商業的に使う試みがありました。でも,企画だけで終わって世に出ませんでした。方言をこんなところに使うと有効だという見本で,韓国では類似企画が実現して,若者が楽しんでいるのに……。実現しなかったとはいえ,一応企業秘密です。データ全部を公開すると何のために集めたかが分かってしまいますので,例文の一部だけを(許可を得て)紹介します。共通語なら「とても きれいな花が 咲いてるね」になるでしょう。全国の都市の若い人の言い方に翻訳したものです。
なんぼか きれいな花が 咲いてるわ 札幌
いらぐ きれいな花が 咲いったっちゃ 仙台
すっげー きれいな花 咲いてっろ 新潟
どえらい きれいな花が 咲いとるね 名古屋
めっちゃ きれいな花 咲いてんなあ 大阪
ぶち きれいな花が 咲いとるの 広島
こじゃんと きれいな花が 咲いちゅうね 高知
ばり きれいな花の 咲いとーね 博多
しーに きれいな花 咲いてるさぁ 沖縄
「とても,大変」にあたる強調表現は,土地ごとに違います。「うまい棒」というお菓子では各地の方言を使った御当地限定版を作っていて,東北は「いぎなり」(第56回「方言付きの食品」。『魅せる方言』三省堂p.149参照。),関西は「めっさ」,九州は「ちかっぱ」(力一杯から)です。上の例文とあまり一致しません。新しい言い方が各地で再生産されるからです。
説明を補いましょう。札幌は「なまら」が有名で,若い人には「なんまら」「なんま」が広がっています。名古屋の「どえらい」は「どえりゃあ,でら」とも言われます。広島では「ぶち」が使われていますが,山口県から広がったと言われます。1994年の山口県のお菓子が証拠になりそうです【写真1】。
詳しくは,インターネットの「新方言辞典」で検索すれば分かります(新版『辞典〈新しい日本語〉』(東洋書林)は図書館か書店でご覧ください)。
「新方言辞典稿・インターネット版」(1996年版) //triaez.kaisei.org/~yari/Newdialect/
例文の「ている」の部分にも「ね」の部分にも色々な違いがあります。方言は花園に例えられます。かつては様々な花が咲き誇っていました。今は共通語という芝生におおわれかけていますが,まだまだ生命力があって,若い人の間に別の花が咲いているのです。