今から10年前の平成16年(2004年)10月23日,新潟県中越地方はマグニチュード6.8の直下型の非常に強い地震に見舞われ,特に山古志村(現長岡市)や長岡市,小千谷市,十日町市などでは大規模な地滑りがあちこちで発生し,甚大な被害が発生しました。
この地震のことを長く記憶にとどめ,今後の同様の災害に備えて体験を語り継いでいこうと,「中越メモリアル回廊」と名付けて7つの震災関連施設が整備されています。
(クリックで全体を表示)
その一つに,山古志村の①「やまこし復興交流館おらたる」があります。この「おらたる」は,愛称として公募した1,011通の中から選ばれたもので,「おらたる」とは,〔私たちの場所〕(おら=私たち,たる=~のあたり)という意味です。現在ではもう高齢の人でないと使わないことばだそうですが,地域の人たちがここに集い,多くの来訪者に訪れてもらい,みんなにとっての「私たちの場所」になってほしいという願いを込めて,地域の人たちを中心とした審査員が選んだものです。【写真1】
地元の人たちに訴える力が強いのは何と言っても「方言」で,東日本大震災に見られるその事例が,この連載にも,単行本にした『魅せる方言 地域語の底力』にも,多数紹介されています。
また,長岡駅前にある長岡市役所などが入った複合交流施設②シティホールプラザ「アオーレ長岡」【写真2】も方言にちなんで命名されています。「アオーレ」とは地元の方言で〔会いましょう〕を意味する「会おうれ」から来ています。名称公募に全国から寄せられた5,552件の中から候補を3つに絞り,その中から一般の投票によって一番人気の高かった「アオーレ」に決まったものだということです(平成21年12月)。(第170回「方言カレンダー(新潟県長岡市)」も参照)
その施設内にある「ながおか市民協働センター」の広報誌③『らこって』(季刊)も方言に由来し,誌名の説明には「「らこって」という名称には,相手の話に共感した時にでる長岡弁「そうらこって」のように,この情報誌を通してお互いが共感し合い,つながり,長岡の市民活動が広がるように,との思いが込められています」とあります。
新潟の方言では,ダ行音がラ行音化するのが特徴の一つです。後の2例も「会おうで ⇒ アオーレ」「そうだこって⇒(そう)らこって」の変化と見ることができるでしょうか。
以上、いずれも地元の方言にちなんだ命名ですが,ちょっと外国語のような響きも感じられて,耳に残ります。“その土地らしさ・地元ならでは”という個性を強くアピールするのに,「方言」は格好の素材の宝庫だと言えます。しかし,だからといって,泥くさくてはマイナスです。垢抜けていてスマートであることも必須の要件の一つでしょう。これまでにこの連載で紹介した事例をそういう目で見直すと,共通項が見えてきそうです。