(菊武学園タイプライター博物館(9)からつづく)
「Williams No.1」(Straight Keyboard Model)は、1894年から1897年頃にかけて、ウィリアムズ・タイプライター社が製造したタイプライターで、独特の印字機構を有していました。ウィリアムズ(John Newton Williams)が発明したこの印字機構は、活字棒の動作が、まるでバッタが跳ぶような軌跡を描くことから、グラスホッパー・アクションと呼ばれています。28本の活字棒は、プラテンの前後に14本ずつ配置されており、それぞれが28個のキーに繋がっています。キーを押すと、対応する活字棒がインク溜めを離れ、いったん上方へと上がったあと、プラテンの上へと伸びていって、プラテンに打ち下ろされます(動画)。プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれるので、打った文字がその瞬間に見えるのです。
ただし、プラテンの前後に活字棒が配置されているため、紙を丸めてプラテンの手前(活字棒の下)にセットする必要があります。また、打った後の紙は、プラテンの奥に丸まって吸い込まれていくため、実際には1~2行分しか見えない上に、打った後の紙を取り出すのが面倒という弱点があります。
「Williams No.1」には、キーが扇状に配置されているモデルと、キーが直線的に配置されているモデルがあります。菊武学園タイプライター博物館が所蔵する「Williams No.1」(製造番号N5903)では、28個のキーが直線的に配置されており、いわゆるQWERTY配列です。各活字棒の先には、それぞれ3種類の文字が搭載されていて、合計84種類の文字を印字できます。キーボードの左端には2種類のシフトキーがあり、手前のシフトキーを押すとプラテンが奥に、奥のシフトキーを押すとプラテンが手前に、それぞれ移動し、各キーごとに3種類の文字が印字できるようになっているのです。
菊武学園の「Williams No.1」の背面には、「MADE IN THE U.S.A.」の文字とともに、「WILLIAMS TYPEWRITER COMPANY FOR EUROPE」「21 CHEAPSIDE, LONDON, ENGLAND.」の文字が刻まれています。コネチカット州ダービーでの製造だと思われますが、この「Williams No.1」は、製造当初からイギリスへの輸出用だったと推定されます。