地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第300回 大橋敦夫さん:長野県方言の拡張活用例ベスト3

筆者:
2014年4月12日

300回の節目を迎えたのを機に、主な調査地とした長野県方言の拡張活用例からベスト3を選びました。例の多さやインパクト等を総合的に勘案して、

(写真はクリックで拡大表示)

【写真1】
【写真1】

  Ⅰ.ずく(第5・55・115・190回)
  Ⅱ.ずら(第25・130回)
  Ⅲ.~ず(第175回)

と、してみました。

Ⅰ.ずく[=精を出してする気力]

和菓子や店名などのネーミング、方言Tシャツを挙げましたが、さらに以下の活用例が加えられます。

①「ずくもち」 和菓子 (上田市内)
②「ずくっ娘味噌」 味噌 (上田市内)
③「ZUKU」 缶バッチ・トートバック;ローマ字表記 (佐久市内)【写真1】
④「ずく出し!知恵出し!おもてなし。プロジェクト」 観光キャンペーン 長野県観光部
⑤「ずくだすガイド」(身体活動ガイドライン) 健康増進運動 長野県健康長寿課
⑥「坂ちゃんのずくだせえぶりでぃ」 番組名 信越放送ラジオ

「ずく」の使用範囲は、全県を覆っていることもあり、県民に発するメッセージとして選ばれやすい語と言えます(④・⑤)。

Ⅱ.ずら[=~だろう]

ネーミングやメッセージの例を挙げましたが、清酒「いいずら」の地元には、大町特産館「いーずら」があり、「ズーラ」(信州諏訪温泉泊覧会)は、現在も継続中です。

Ⅲ.~ず[=~しよう]

【写真2】
【写真2】

その後、公務員募集の方言活用(第271回)の例を見つけました。長野市内を走る路線バスに取り付けられた自衛官募集の広告です。
意味は、「あなたも行きましょう! 一緒にやりましょう!」となります。

これらのうち、「ずく」は、造語力が強く、「おーずく」[=大きな仕事に立ち向かう活力]、「こずく」[=まめまめしく働く様子]、「ずくなし」[=怠け者]などの類語とともに、県民に親しまれており、方言みやげ・グッズ・ネーミング・メッセージなど、今後も、さまざまな方式での活用が予想されます。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。