用字用語必携
昭和12年(1937)2月1日刊行
吉沢義則編/本文230頁/三五判(縦149mm)
本書は三省堂における最初の用字用語辞典である。書名に「辞典」ではなく、「必携」が用いられた。本扉には「仮名遣・送仮名・同訓異義・漢字正俗・文法/便覧」とある。
「必携」というのは、便覧やハンドブック類を表す。古くは『墨場必携』(天保7年〈1836〉序、明治13年〈1879〉刊)などがあった。
「用字」を書名に使ったものは『万葉用字格』(文政元年〈1818〉)などがあるが、「用字用語」を使ったのは鳴海連著『用字用語辞典』(東宛書房、昭和11年)が最初だった。ただし、その内容は同訓異義のみを扱った辞典である。したがって、現在見られるような日本語表記のための総合的な内容を備えたものは、『用字用語必携』が最初と言えるだろう。
編者の吉沢義則は、京都帝国大学を昭和11年に定年退官し、刊行当時は名誉教授だった。載録語彙の蒐集・編纂には、田巻素光(東京府立第七高等女学校教諭)の助力があったという。
本書の見出しは歴史的仮名遣いだが、配列は発音通りの五十音順である。見出しの下に発音をカタカナで載せた。見出しにも語釈にも、小書きの促音・拗音「っゃゅょ」を使っている。
各項目には、以下の5種類の○印がある。
*「送+○」
送り仮名は、明治40年の文部省送仮名法に準拠し、前付に載せた「送仮名法」を適宜参照するようにしてある。
*「国+○」
国語(和語)仮名遣いで「い・ひ・ゐ」「やう・よう」など、迷うものを挙げている。
*「音+○」
字音仮名遣で「しゃう・しょう・せう・せふ」「いん・ゐん」など、紛らわしいものを挙げている。
*「異+○」
同訓異義となる漢字の音や意味を挙げている。
*「文+○」
活用の行・段を誤りやすい動詞の活用、助動詞の活用・接続・意味、助詞の接続・意味、接頭語・接尾語の意味を挙げている。
なお、国語辞典に「ん」の項目が載るのはまだ珍しかった時代に、詳しい解説が載せられたのは注目に値する。
巻末には、附録として「漢字正俗一覧」57頁、「新旧対照新小学国語読本使用漢字解説」50頁がある。後者は、昭和14年の30版(30刷)から38頁増えて増訂版となった(版数は初版から連続している)。また、動詞・形容詞・形容動詞・助動詞の活用表もある。
定価は、初版が50銭、増訂版が60銭だった。
増訂版のカバーには、表紙側に「全国民に推薦す!!/学生に 実務家に 教育家に 政治家に 文筆に親しむ方に」とあり、裏表紙側に以下の文章を載せている。
「用字用語の誤記は、その人の不注意を物語り、知らざるが故の筆不精は、事務の渋滞を招来し、延いては業務の進展をも阻害する結果となる。正しき日本語を用ひんとする士は是非本書を座右に備へて最大限度の御活用を賜へ。」
戦後は新たに三省堂編修所編『用字用語必携』(昭和32年)が刊行され、改訂版(昭和37年)、第三版(昭和44年/改題して『新用字辞典』昭和45年)、第四版(昭和45年)、第五版(昭和48年)、第六版(昭和49年)、第七版(昭和52年)が出た。
さらに、『必携用字用語辞典』(昭和54年)となり、第二版(昭和56年)、第三版(昭和61年)、第四版(平成4年)、第五版(平成17年)、第六版(平成24年)と続いている。
●最終項目
●「猫」の項目
ねこ 「異+○」(名)[猫]ベウ・メウ。[貓]猫と同じ。
●「犬」の項目
いぬ 「国+○」[犬](名)犬科の獸。
いぬ 「異+○」(名)[犬]ケン。普通のイヌ。[狗]コウ・ク。犬と同じ。特に犬の子をいふこともある。[尨]バウ。ムクイヌ。毛の多い犬。彡は毛の長い意を示す。[戌]ジュツ。十二支のイヌ。