日西大辞典
昭和12年(1937)7月10日刊行
ホアン・カルボ編/本文1427頁/四六判(縦188mm)
本書は三省堂における最初のスペイン語辞書である。ただし、前付でもスペイン語で日本語を説明してあるなど、日本人向けの辞典とは異なっていた。
編者は、在マニラのサント・トーマス大学の神学教授であり、日本には27年間住んでいた。序文には、編纂に約20年かかったと記されている。財団法人比律賓協会や外務省文化事業部の援助を得て刊行された次第である。
フィリピンは、300年以上スペインに統治され、1898年の米西戦争以降にアメリカの統治となってからもスペインの影響は色濃く残っていた。
日本語をスペイン語で解釈した最初の辞書は、1630年にマニラで刊行された『日西辞書』である。これは、ポルトガル語で書かれた『日葡辞書』をスペイン語に訳したものだった。
日本国内では、明治後半になってスペイン語の会話書や単語集が作られ始め、大正になって和西辞典や西和辞典の刊行が始まる。そして、本格的なスペイン語辞書が登場するのは、昭和に入ってからのことである。
本書は、スペイン語主体で書かれているとはいえ、当時の和西辞典としては最大を誇った。しかし、大辞典というほどの規模ではない。紙質や活字の大きさの違いで本が大きくなっていても、情報量が格段に多くなっているわけではなかった。
例えば、語例数を見ると「大辞典」にしては物足りなさがある。「猫」の語例は、「猫を飼う」「三毛猫」「猫をかぶる」「猫かぶり」「猫足」の5つ。「犬」の項目の語例は、「犬がほえる」「犬にかまれる」「犬をけしかける」の3つ。
大正11年(1922)の『袖珍コンサイス和英辞典』(本文821頁)と比較すると、「猫」では「猫も杓子も」「猫の目のやうに変る」「猫ばばを極める」「猫に鰹節を預ける」「猫に小判だ」「猫被り」「猫入らず」の7つ。「犬」では、「犬もあるけば棒にあたる」「あの二人は犬と猿のやうだ」「犬張子」「犬小屋」「犬殺」「犬走(堡塁の)」「犬死する」の7つ。いずれも、語例数は『日西大辞典』より多かった。
それでも、昭和39年(1964)の9版まで増刷が続いたのだから、多くの日本人にも利用されていたことは間違いない。その後、三省堂によるスペイン語辞書の出版は20世紀中にはなかった。現在は、『クラウン和西辞典』(2004年刊行)、『クラウン西和辞典』(2005年刊行)、『デイリーコンサイス西和・和西辞典』(2010年刊行)がある。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目