三省堂辞書の歩み

第48回 コンサイス仏和辞典

筆者:
2016年2月24日

コンサイス仏和辞典

昭和12年(1937)3月10日刊行
丸山順太郎編/本文1002頁/三五判変形(縦152mm)

【コンサイス仏和辞典】29版(昭和16年)

【本文1ページめ】

本書は三省堂における2冊目の仏和辞典で、『仏和辞典』(明治19年・1886)から50年ぶりの新刊だった。その間、大倉書店や白水社などから仏和辞典が出版されていたが、医学や軍事の分野別もあった独和辞典に比べると、点数は多くない。

フランス語の学習は当初、文学・美術や外交方面が中心であったが、やがて哲学・社会学・言語学のみならず、数学・物理学・医学などの自然科学や政治・経済・法律などの諸方面にまで及ぶようになった。そのことが、新たな仏和辞典の編纂を動機づけた。

「緒言」に挙げてある6つの特徴は、(1)万国音標文字による発音表示、(2)新語、新義を豊富に収載、(3)俗語を豊富に収載、(4)固有名詞とそれに関係ある形容詞を採録、(5)不規則動詞の変化形を見出しに掲出、(6)必要にして十分な用例の掲載。付録には「動詞変化表」が35頁ある。

体裁は、前年に出た『コンサイス独和辞典』と共通点が多く見られる。語釈は漢字カタカナ交じり文で、外来語は平仮名書きだった。難読語における括弧に入れた2行割りの読み仮名も縦書きのままである。ただし、訳語に文語形は使われていない。

編者の丸山順太郎(1882~1970)は、明治39年(1906)に共著でエスペラントの入門書を出版。大正9年(1920)にソルボンヌ大学を卒業。昭和2年(1927)に『白水社和仏辞典』を出し、フランス語関連の著書も多い。また、陸軍大学で教授を務めた。

すでに白水社は、大正10年に『模範仏和大辞典』を、昭和6年に小型の『標音仏和辞典』を刊行していた。さらに、昭和12年には『新仏和中辞典』を出すのである。そのため、白水社で和仏辞典を出した丸山は、仏和辞典を三省堂で出すことになったのかもしれない。

本書の協力者には、中平解、田辺貞之助、高山峻、土屋文吾、小関藤一郎、鈴木力衛がいた。昭和24年の改訂版では中平解の援助があったが、頁数は変わらず、奥付の版数も連続していて、次の新版(川本茂雄と共編、昭和33年)の奥付に改訂の履歴は載っていない。

新版から漢字ひらがな交じりになり、第3版が昭和47年(1972)に、第4版が昭和53年(1978)に出たあと、平成5年(1993)に『新コンサイス仏和辞典』(川本茂雄・内田和博共編)となった。

●最終項目

●「猫」の項目

●「犬」の項目

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2または第3水曜日の公開を予定しております。