新撰漢和辞典
昭和12年(1937)2月1日刊行
宇野哲人・長沢規矩也編/本文1044頁/四六判(縦182mm)
本書の編者は2名いるが、宇野哲人編『新漢和大字典』(昭和7年)をベースに、長沢規矩也の主導で成ったものと思われる。長沢の肩書きは「前第一高等学校教授」と記されていた。当時は法政大学の講師で、3年後の昭和15年に同大学の教授となる。
『新撰漢和辞典』は、これまでの漢和辞典と比べると、異なる点がたくさんあった。まず、中等学校の生徒を対象としていたこともあり、字義・語釈が文語体ではなくなっている。凡例にいたっては、です・ます調で書かれていた。
印刷所が三省堂印刷ではなく、共立社印刷所だったことは異例である。天・地・小口の三方を染めて色小口にしたことも、コンサイス判以外ではなかった。
最大の特色は、部首の新設や統合、所属変更を行い、引きやすさに重点を置いたことだ。「木」の部首は位置によって、上・下・左・その他の4つに分けている。また、画数の数え方も簡単にした。例えば、本来は5画の「瓜」を6画にしている。なお、『新漢和大字典』から表紙の裏の見返し部分に部首索引が載り、本書ではさらに投げ込みの別紙による部首索引も付いていた。
字音に関しては、四声が省かれた。さらに、『新漢和大字典』と同様に、漢音・呉音などの表示がなく、半切も載っていない。
熟語は、国語・漢文の教科書から採用されたものが多い。漢語ばかりではなく、「一入(ひとしお)」といった和語もある。『新漢和大字典』で記号を付けてあった「国訓」(現代日本語)や「時文」(現代中国語)の表示はなくなった。
熟語の配列は、五十音順ではなく、画数順にしてある。親字が下に付く熟語の一覧はないが、熟語の数は増えた。「猫」は1語から2語に、「犬」は5語から12語になっている。その代わり、出典・用例は減らされてしまった。
附録には、「中華民国行政区劃表・世界主要国漢名表・世界主要都市漢名表・韻目表」4頁、「主要部首名称」1頁、「字音仮名遣簡表」12頁、「常用漢字表」7頁、「編纂ををはりて(長沢規矩也)」2頁、「音訓索引」110頁、「支那歴朝興亡表」1頁があった。
初版刊行の翌13年に増訂版、16年に補修版、24年に新修版が出ている。補修版には「支那時文用語篇」56頁が加わった。次の新修版では附録が減って、「主要部首名称」1頁、「字音仮名遣簡表」12頁、「当用漢字表」7頁、「音訓索引」110頁だった。
音訓索引は発音的仮名遣いで、「ゐ→い」「ゑ→え」「ぢ→じ」「づ→ず」としている。そのため、現代仮名遣い(昭和21年)になっても支障がなく、昭和33年まで増刷されていた。新たな長沢規矩也編『明解漢和辞典』(新版)が出るのは、翌34年のことである。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目