漢字林
昭和11年(1936)11月25日刊行
テオドール・ゲッペルト編/本文283頁/A6判(縦153mm)
本書は、日本語を学ぶ外国人のための漢字辞典である。表紙や扉・内題には「A Handbook for the Systematical study of Chinese-Japanese Characters」と記されている。編者名が「T. Geppert」となっているせいか、奥付には「テー・ゲッペルト」と載った。扉には、協力者として「P. Herzog and G. Voss」が挙がっている。また、土橋八千太(上智大学教授)の助力もあったと序文で述べられている。
編者はドイツ出身のイエズス会神父であり、上智大学教授だった。最初の来日が1935年というから、本書出版の前年である。1937年にいったん帰国し、1940年に再来日。1954~61年は西江大学設立のため韓国に滞在したが、再び上智大学へ戻り、2002年に練馬区上石神井のイエズス会ロヨラハウスで天に召された(享年98)。
本書は漢和辞典と同じ形式をとり、親字の字義と熟語の意味が英語で書かれている。しかし、部首順の配列ではない。基本的には画数順にしているものの、独自に9種のストローク(一・丨・ノ・乙など)で分け、さらに同じ部分をもつ漢字を続けて載せた。
例えば、1画では、「一」の後は「閂・辷」、さらに関連性が強い「壹」を載せる。次の「乙」の後には、「軋・札」。2画では、「二・貳」、「十・什・汁・叶・計・針・辻」といったぐあいである。
また、「木」は4画だが、その後には「床・李」しかない。「林」は8画にあり、「淋・焚・森」が続く。ところが、「禁」は13画にあり、「噤・襟」が続く。共通する部分を多く持っている漢字を優先し、ひとくくりにしたわけである。
「犬」は4画にあり、「太・汰・駄」+「大」、「犬・吠・突」の順。「猫」は9画にあり、「苗・描・猫・錨」の順で載せている(草冠は「十十」で4画)。
親字は、音をボールド体で太く示し、訓はイタリック体で載せた。熟語の読み方はすべてイタリック体になっている。
親字として載せた漢字は3064字。それ以外に参考として掲載したものもある。例えば、「青」の後は「晴・清・精・請・情・錆・猜」が親字になっていて、「菁・靖・蜻・鯖」は「青」の欄に列挙してある。「睛」がないのは、日常的に使われているものではないからなのか。
巻末には、「LIST OF PHONETIC ELEMENTS」という音を表す旁の部分の索引が6頁と、総画索引が22頁ある。
定価は7円なので、同社の大型辞典よりも高かった。昭和25年にはエンデルレ書店から刊行され、21頁の音引き索引が加わった。
《余談》筆者の手元には、内部用に製本された初版の『漢字林』がある。奥付に印紙が貼られていないことからも、非売品だったことは明らかだ。栞ひもが2本付いているのは違例だし、6頁以降には何も印刷されていない同質の紙が1枚ずつ入って、本の厚みは2倍。それでも装丁は正規本と同様である。挟み込まれた紙には、補足のための親字や熟語などが英訳とともにペンで書かれている。誰が書いたものかは不明だが、三省堂の関係者だったことは確かだろう。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目