今回は,「こびる」を使った方言の拡張活用例の紹介です。
まず,「こびる」の意味ですが,間食,おやつのことです。この連載の第80回には変異形の「おこびれ」から[「おこびれ」とは、おやつのことで、「こびり」とも言い、長野県内の他地域では、「こびる(小昼)」(木曽・伊那)「こびれ」(更埴・小県)と言ったりもします。漢字で、「小昼」と書くことができるように、語源のハッキリした語です。]と説明されています。『大辞林 第三版』では「こひる」の項で[びる」とも〕①(略) ②朝食と昼食,または昼食と夕食との間に食べる軽い食事。③おやつ。間食。]との説明です。
「こびる」の方言の拡張活用例は,北東北にも多くあり,今回5例紹介します。まず岩手県です。一つめは,雫石町の道の駅「雫石あねっこ」内「こびるコーナー」です【写真1】――//www.anekko.co.jp/00annai.html――。二つめは,盛岡市「ちいさな野菜畑」内「こびる食堂」です――//www.chisana-yasaibatake.jp/kobiru.html――。三つめは,遠野市の道の駅「遠野風の丘」内「こびる屋風っこ」です【写真3】。青森県では,津軽方言ハンカチ【写真4】と八戸市の観光コースの一つ「こびりっこコース」【写真5】です。「こびりっこ」は雫石あねっこのメニューに以前ありました【写真6】。JR雫石駅の軽食コーナーも「こびりっ子」です。
意味の補足です。語構成は,第80回や『大辞林』のとおり「こ+ひる」です。「こ」は,軽い,または,準ずるの意です。「ひる」は時間帯でなく,昼食の意です。『大辞林』の「ひる」の項にも[③昼食。ひるめし。「-は簡単に済ませる」]とあります。岩手でも,昼食の時間を「ヒル時間」,昼食を摂るのを「ヒルにする」などと使います。「こびりっこ」は,愛称の「-ッコ」が付いたものです。
なお,「こびる」の時間帯は,地域により午前と午後の2種あります。『大辞林』の②に[朝食と昼食,または昼食と夕食との間]とあるのは,どちらなのかは地域の習慣で,これによりその地域の「こびる」の意味も決まります。内容ですが,『大辞林』の,②では軽食,③では主に菓子類を意味すると思われます。元は,農作業中の間食のことを意味していました。それが現代では,共通語の「おやつ」と同様の意味も持つようになりました。