タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(55):Royal Typewriter No.5

筆者:
2019年4月18日
『The Rotarian』1914年3月号
『The Rotarian』1914年3月号

「Royal Typewriter No.5」は、ロイヤル・タイプライター社が1910年に発売したタイプライターです。金文字のROYALのロゴが、筐体横や用紙ガイドに大きく記されており、その一方で、印字機構の中心である活字棒(type arm)は、筐体の中(インクリボン・スプールの下側)にしまい込まれているのが特徴です。

「Royal Typewriter No.5」は、42キーのフロントストライク式タイプライターです。筐体内部にほぼ平らに配置された42本の活字棒は、各キーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、キーボード最下段両端の「SHIFT KEY」を押すと、全ての活字棒が全体的に下がって大文字が印字されます。キーボード最上段右端には「SHIFT LOCK」キーがあって、「SHIFT KEY」を押し下げたままの状態にできます。タブ機構は非常に独特で、タブ・ラックと呼ばれる左右に長い棒が用紙ガイドの裏側にあり、そこにタブ・ストップを複数箇所、設定できるようになっていました。右側の「SHIFT KEY」のすぐ上にタブ・ボタンがあり、これを押し込むと次のタブ・ストップまで移動する、という仕掛けでした。

「Royal Typewriter No.5」のキーボードは、基本的にQWERTY配列です。キーボード最上段は、左端に「MARGIN RELEASE」キーがあって、大文字側に"#$%_&'()*が、小文字側に234567890-が並んでおり、右端に「SHIFT LOCK」キーがあります。次の段は、大文字側にQWERTYUIOP¼が、小文字側にqwertyuiop½が並んでいます。その次の段は、左端に「BACK SPACE」キーがあって、大文字側にASDFGHJKL:@が、小文字側にasdfghjkl;¢が並んでおり、右端にタブ・ボタンがあります。最下段は、左右端に「SHIFT KEY」があって、大文字側にZXCVBNM?.¾が、小文字側にzxcvbnm,./が並んでいます。数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。

「Royal Typewriter No.5」の輸入販売は、丸善が日本総代理店(朝鮮および満洲を含む)となっていました。下の広告によれば、プラテン幅が広い「Royal Typewriter No.6」や「Royal Typewriter No.8」も、丸善は輸入販売していましたが、フールスキャップ(13インチ幅)の「Royal Typewriter No.5」が最も売れていたようです。

『學鐙』1914年4月号
『學鐙』1914年4月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。