タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(54):Columbia Bar-Lock No.6

筆者:
2019年4月4日
『Illustrated Phonographic World』1897年3月号
『Illustrated Phonographic World』1897年3月号

「Columbia Bar-Lock No.6」は、コロンビア・タイプライター社が1895年に発売したダウンストライク式タイプライターです。上の広告の頃のコロンビア・タイプライター社の主力製品は、「Columbia Bar-Lock No.6」と「Columbia Bar-Lock No.7」だったのですが、「Columbia Bar-Lock No.7」はプラテンの幅が14インチで、本体幅より長いプラテンを搭載していました。その点を考えると、上の広告は「Columbia Bar-Lock No.6」を描いていると思われます。

「Columbia Bar-Lock No.6」の特徴は、プラテンの手前に屹立した78本の活字棒(type bar)にあります。活字棒は、それぞれがキーに繋がっていて、キーを押すと、対応する活字棒がプラテンの上面に打ち下ろされます(ダウンストライク式)。プラテンの上面には紙とインクリボンがあって、印字の瞬間には、インクリボンごと活字棒が打ち下ろされるのです。打ち下ろされた活字棒は、バネの力で元の位置に戻ります。すなわち、プラテンの上面で印字がおこなわれるので、オペレータが少し上から覗き込めば、印字された文字を見ることができるのです。多くの文字が見えるよう、先行モデルの「Bar-Lock No.4」に比べて、紙おさえ(ruler)が細くなっており、見える範囲も広がっています。

「Columbia Bar-Lock No.6」のキーボードは78字が収録されており、大文字も小文字も数字も記号も、全て一打で打つことができます。キーボードの最上段には6個のキーしかなく、上の広告に見えるキー配列では“#%_@”と並んでいます。その次の段は2QWERTYUIOP6と、その次の段は3ASDFGHJKL78と、その次の段は45ZXCVBNM-$9と並んでいて、右端に「M.R.」(マージンリリース)キーが配置されています。その次の段は&qwertyuiop;と、その次の段は()asdfghjkl:と、最下段は/'zxcvbnm?,.と並んでいます。キー配列は、いわゆるQWERTY配列で、大文字のキー配置と小文字のキー配置が、上下で完全に対応しています。一方、数字に関しては、「2」~「5」のキーが大文字の左側に、「6」~「9」のキーが大文字の右側に、それぞれ集められており、「1」は大文字の「I」で、「0」は大文字の「O」で、代用することが想定されていました。

「Columbia Bar-Lock No.6」は、「Bar-Lock No.2」や「Bar-Lock No.4」と同様、フロントパネルに「Columbia」の文字は無く、一般には「Bar-Lock No.6」と呼ばれていました。ただ、下の広告にもあるように、コロンビア・タイプライター社としては「Columbia Bar-Lock」というブランド名を、推し進めていく戦略だったようです。

『Munsey's Magazine』1897年3月号
『Munsey's Magazine』1897年3月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。