タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(38):Bar-Lock No.4

筆者:
2018年8月9日
『Scribner's Magazine』1893年6月号
『Scribner's Magazine』1893年6月号

「Bar-Lock No.4」は、コロンビア・タイプライター社が1892年に発売したタイプライターです。先行する「Bar-Lock No.2」と同様、「Bar-Lock No.4」はダウンストライク式タイプライターで、ただし、活字棒(type bar)の数が78本に増えています。

「Bar-Lock No.4」の特徴は、プラテンの手前に屹立した78本の活字棒にあります。活字棒は、それぞれがキーに繋がっていて、キーを押すと、対応する活字棒がプラテンの上面に打ち下ろされます。プラテンの上面には紙とインクリボンが置かれていて、印字の瞬間には、インクリボンごと活字棒が打ち下ろされるのです。打ち下ろされた活字棒は、バネの力で元の位置に戻ります。このような印字方式を、ダウンストライク式と呼びます。ダウンストライク式タイプライターでは、プラテン上面に置かれた紙の上に印字がおこなわれるので、オペレータが少し上から覗き込めば、印字された文字が直接見えるのです。

「Bar-Lock No.4」のキーボードは78字が収録されており、大文字小文字が、全て別々のキーに配置されています。キーボードの最上段には6個のキーしかなく、上の広告に見えるキー配列では1#%_@"と並んでいます。その次の段は2QWERTYUIOP6と並んでいます。その次の段は3ASDFGHJKL78と並んでいます。その次の段は45ZXCVBNM-$9と並んでいて、右端に「M.R.」(マージンリリース)キーが配置されています。その次の段は&qwertyuiop;と並んでいます。その次の段は()asdfghjkl:と並んでいます。最下段は/'zxcvbnm?,.と並んでいます。シフト機構は無く、大文字も小文字も、全て1打で印字できるのが特徴で、そのために、大文字のキー配置と小文字のキー配置とが、上下で完全に対応しています。また、数字に関しては、「1」「2」「3」「4」「5」のキーが大文字の左側に、「6」「7」「8」「9」のキーが大文字の右側に、それぞれ集められており、「0」は大文字の「O」で代用します。

「Bar-Lock No.4」は、MCMA (Massachusetts Charitable Mechanic Association)の第18回博覧会(1892年10月5日~12月3日、ボストン)で、金メダルを受賞しました。「Hammond」「Smith Premier」「Densmore」など強豪がひしめく中、「印字された文字が直接見える」という「Bar-Lock No.4」の技術が、上の広告にもあるとおり、非常に高く評価されたのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。