「Victor No.1」は、キャンベル(George William Campbell)が発明したフロントストライク式タイプライターを、ビクター・タイプライター社が1907年に発売したものです。ビクター・タイプライター社は、これ以前は、ダウンストライク式の「Franklin Typewriter」を製造しており、社名もフランクリン・タイプライター社でした。フロントストライク式の「Victor No.1」を発売するにあたり、社名をビクター・タイプライター社に変更したようです。
「Victor No.1」の特徴は、プラテンの手前に半円状に配置された42本の活字棒(type arm)にあります。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。活字棒の先には活字が2つずつ埋め込まれていて、通常は小文字が印字されます。キーボード最下段の左右端にある「SHIFT KEY」を押すと、プラテンが持ち上がって、大文字が印字されるようになります。活字棒の反対側は、二又の小さなフォークのような形状が特徴的で、これにより、印字位置がブレにくいようになっているのです。
「Victor No.1」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。上の広告に見えるキーボードでは、最上段に$234567890-が並んでいて、シフト側に¼"#½%_&'()¾が並んでおり、さらにその右上に「SHIFT LOCK」キーが配置されています。その次の段は¢qwertyuiop/が並んでいて、シフト側に@QWERTYUIOP?が並んでいます。その次の段はasdfghjkl:が並んでいて、シフト側にASDFGHJKL;が並んでいます。最下段は、左右の端に「SHIFT KEY」が配置されていて、その間にzxcvbnm,.が、シフト側にZXCVBNM,.が並んでいます。コンマとピリオドが重複しているため、42キーで82種類の文字となっているのです。なお、数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。
キーボードの左上に見える櫛歯状のデシマル・タビュレターは、設定した桁数に対応する空白を、数字の前に入れる機構です。これにより、スペース・バーを何回も叩くことなく、数字の右揃えが可能となっていたのです。ただし、数字の桁数ごとに設定しなければならない機構だったため、必ずしも使い勝手は良くなかったようです。