タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(37):L. C. Smith & Bros. Typewriter No.2

筆者:
2018年7月26日
『Yale Literary Magazine』1908年3月号
『Yale Literary Magazine』1908年3月号 (写真はクリックで拡大)

「L. C. Smith & Bros. Typewriter No.2」は、スミス(Lyman Cornelius Smith)率いるL・C・スミス&ブラザーズ・タイプライター社が、1904年に発売したタイプライターです。これ以前にスミスは、スミス・プレミア・タイプライター社で「Smith Premier No.1」などのアップストライク式タイプライターを製造・販売していましたが、1903年にL・C・スミス&ブラザーズ・タイプライター社を設立し、新たにフロントストライク式タイプライターの製造・販売を始めたのです。

「L. C. Smith & Bros. Typewriter No.2」は、42キーのフロントストライク式タイプライターで、円弧状に配置された42本の活字棒(type arm)が、ライバルの「Underwood Standard Typewriter No.5」に酷似しています。各キーを押すと、対応する活字棒が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。キーを離すと、活字棒とインクリボンは元の位置に戻り、紙の前面に印字された文字が、オペレータから直接見えるようになります。つまり、打った文字がすぐ読めるのです。活字棒の先には、活字が2つずつ付いていて、通常の状態では小文字が印字されますが、「SHIFT KEY」(キーボード最下段の左右端)を押すと、タイプバスケットが持ち上がって大文字が印字されるようになります。また、キーボード最上段の左端には「SHIFT LOCK」キーがあって、タイプバスケットを持ち上げたままにすることができます。

「L. C. Smith & Bros. Typewriter No.2」のキー配列は、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの最上段は、234567890-が小文字側に、"#$%_&'()*が大文字側に並んでいて、左端に「SHIFT LOCK」キー、右端に「MARGIN RELEASE」キーが配置されています。その次の段は、qwertyuiop½が小文字側に、QWERTYUIOP¼が大文字側に並んでいます。その次の段は、asdfghjkl;¢が小文字側に、ASDFGHJKL:@が大文字側に並んでいます。最下段は、zxcvbnm,./が小文字側に、ZXCVBNM?!¾が大文字側に並んでいて、左右の端に「SHIFT KEY」が配置されています。数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。

スミスは1910年に亡くなりましたが、スミスの弟たちは社名を変更しませんでした。「L. C. Smith」の名を残しつつ、その後も「L. C. Smith & Bros. Typewriter No.3」「L. C. Smith & Bros. Typewriter No.4」と、新たなフロントストライク式タイプライターを製造・販売し続けたのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。