日本ではクリスマスケーキは際物というやつで、十二月二十五日を過ぎたらもう売れないから、二十五日の夜にはあちこちで声をからして売り急いでいる。しかしドイツのクリスマスケーキは感覚が違うようだ。友人のドイツ人に言わせると「クリスマスケーキは焼きたてではまだ美味しくないもので、二十五日過ぎてからだんだんに水分が抜けて美味しくなってくる。一番美味しいのは復活祭の頃」なのだそうだ。後半はドイツ人がよく使う冗談である。しかし、何しろアトヴェントAdvent「待降節」というクリスマス前の約一ヶ月の間徐々に盛り上がりながらお祝い気分が続き、十二月二十五日の降誕祭Weihnachtenそのものが過ぎても、明けて一月六日の「主の公現の祝日」Dreikönige, Dreikönigsfest, Epiphanieまでクリスマスツリーを飾ってお祝いが続く決まりであるから、伝統的なドイツ語圏のクリスマス菓子が日持ちのする焼き菓子で、むしろ作ってから日を置いた方が美味しくなるようになっているのも頷ける。(因みにクリスマスツリーは本来二十五日に飾り付けるものだったのだそうだ)
代表格は何と言ってもシュトレンStollenやレープクーヘンLebkuchenだ。日本でも本格的なものが簡単に手に入るようになった。見かけは地味だが、ドイツの祝い菓子にはこれでもかこれでもかと言うほど、ドライフルーツとナッツと香料が入っていて、日本人は面食らうくらいだ。ドイツでも昔はこういうものが憧れの贅沢品で、祝い菓子でたっぷり楽しんだ様子がうかがえていじらしいような気がする。それに伝統的なドイツの祝い菓子は大きかった。老舗の本格的なレープクーヘンをドイツの友人が送ってくれたことがあるが、ハトサブレくらいの大きなものだった。もうあんな大きなレープクーヘンはドイツでも見かけなくなった。香料も随分おとなしくなった様な気がする。