クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―

103 ドイツのお菓子(13)―クリスマス菓子(2)―

筆者:
2010年12月20日

まだ日本でそれほど知られていないのが、オランダが発祥の地だというシュペクラーツィウス Spekulatius というクリスマス用の香料入りクッキーである。地味なクッキーだが、特徴は色々な図柄が付いていることだ。聖ニコラウスの姿が浮き彫りになっているのが原形らしい。レープクーヘンに比べると香料も遙かにおとなしく、さくさくした食感で飽きのこない美味しさである。
m6e904663.jpg

もともとドイツのクリスマスにサンタクロースはいなかった。十二月六日の聖ニコラウスの日に、子供にちょっとしたお菓子やお小遣いをプレゼントする習慣があっただけのようだ。見知らぬ老婦人が突然にこにこしながら寄ってきて、「ニコラウス!」と言いながら何かこちらの手の中にねじ込むから、何だろうと思って手を開いてみると五マルク硬貨だった、というようなエピソードをK先生から聞かせてもらったことがある。しかしその時先生はもう四十歳くらいだったというから驚くが、一般に日本人は若く見られるから、必ずしもあり得ないことではない。これはまた別の話である。

ウィーンのクリスマス菓子ならさぞやゴージャスだろうと期待すると、伝統というのはそんな安易なものではないらしく、ウィーンでクリスマスに食べるキプフェル Kipfel, Kipferl という三日月型の焼き菓子もいたって地味なものである。これの別名が Hörnchen で、クッキー生地で作る場合と、パン生地で作る場合があって、マリー・アントワネットのお輿入れの後に後者がフランスで発展してクロワッサン Croissant の原形になったのだというのはよく知られた話である。

筆者プロフィール

『クラウン独和辞典第4版』編修委員 石井 正人 ( いしい・まさと)

千葉大学教授
専門はドイツ語史
『クラウン独和第4版』編修委員

編集部から

『クラウン独和辞典』が刊行されました。

日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

(第4版刊行時に連載されたコラムです。現在は、第5版が発売されています。)