辞書の説明には統一感が必要です。項目によって説明のしかたが変わると、整理されていない感じを与えたり、別の意味合いがあるように受け取られたりしかねません。
たとえば、ものの状態を表すことばを説明するとき、『三省堂国語辞典』では多く「……ようす」を使います。「ぺったんこ」の説明ならば〈つぶれたように低く、平らなようす。〉となります。ここで「……さま」を使う辞書もありますが、『三国』では、より日常語らしい「ようす」で統一し、「さま」は使いません。
とはいえ、全体の統一を優先するあまり、それぞれのことばの説明が不自然になってしまっては、元も子もありません。『三国』では、場合によって、わざと不統一に見える処理をしていることがあります。
「第二次大戦」と「第二次世界大戦」もその一つです。「駅弁大学」の語釈には、〈第二次大戦後、各地にできた新しい大学。〉と書いてあります。ところが、「近代」の語釈には、〈……日本では、一般(イッパン)に明治維新(イシン)から第二次世界大戦の終結まで。〉とあります。「世界」の文字があったりなかったりしています。
これは、次のような区別によるものです。その項目が、世相や風俗に関するものならば、略称の「第二次大戦」を使います。一方、戦争や歴史に関する専門語ならば、正式な「第二次世界大戦」を使います。「駅弁大学」のようなくだけたことばの説明に、「第二次世界大戦」という硬いことばを使うと、大げさな感じがするからです。
「地方自治体」と「地方公共団体」も、場合によって使い分けています。どちらも同じ意味ですが、「公立」の語釈では〈地方自治体で たてた・もの(こと)。〉としており、「公共企業体」の語釈では〈ひとびとのために利益を はかろうとして、国や地方公共団体が出資した団体。〉としています。
「地方公共団体」は法律上の言い方ですから、法律などに関する専門語の説明に使っています。一方、「地方自治体」は、それ以外の一般語の説明に使っています。それぞれの項目の性質に合わせて、説明のことばを変えているのです。
項目の説明に使うことばには、このように細かいルールを作っています。ルールに従いつつ、それを感じさせないほど自然な説明を書くことを、私たちは心がけています。