三省堂国語辞典のすすめ

その16 「だったり」って、言ったりする?

筆者:
2008年5月21日

突然ですが、次の2つの文を読み比べてみてください。どちらが自然だと思いますか。

  1. 彼女の口紅は、日によって、赤だったりオレンジだったりする。
   2. 私は、赤だったりオレンジだったり、暖かい色が好きだ。

【赤だったりオレンジだったり】
【赤だったりオレンジだったり】

多くの人は、1がより自然だと感じるのではないでしょうか。「~だったり~だったり」という言い方は、口紅の色が日によって変わるように、場合によって変わるものを並べるときに使います。2のように単純に並べる場合は、ふつう、「赤やオレンジなど」「赤とかオレンジとか」などと言うところです。

でも、2のような言い方もよく聞かれます。たとえば、女性歌手がインタビューで次のように答えていました。

〈〔理想の〕男性像はですね、やっぱり頼れる雰囲気のある人だったり、仕事ができる人だったり、なんか引っ張ってくれそうな方が……。〉〔岡本真夜〕(東京MXテレビ「Bayside Cafe」2006.10.29 20:30)

これはべつに、理想の男性像が、ある場合には頼れる雰囲気の人で、またある場合には仕事ができる人だということではありません。「頼れる雰囲気の人や、仕事のできる人など、引っ張ってくれそうな人」と、単純に例を並べているのです。

「だったり」のこのような使い方は、昔の文章には見られず、どうやら近年の言い方だと考えられます。口頭だけでなく、文章でも、次のように出てきます。

〈〔この小学校の〕校内を歩くと、廊下だったり、階段の踊り場だったりあちこちに「お薦め本」の掲示がある。〉(『毎日新聞』2008.1.23 p.11)

これは、「廊下にも階段の踊り場にも掲示がある」ということで、昔なら「だったり」という言い方は使わなかったでしょう。

【多浪生の座談会より】(ミニコミ誌『早稲田魂'08』p.100)
【多浪生の座談会より】
(ミニコミ誌『早稲田魂’08』p.100)

「だったり(であったり)」のこういう用法がいつごろから広まったか、正確に言うのはむずかしいのですが、今では「AとかBとか」「AだのBだの」「AやらBやら」などと同じ、並立助詞的な用法が成立していることは無視できません。そこで、『三省堂国語辞典』では、今回の第六版で「だったり」という連語の項目を特に立てました。上の1・2に示したように、用法を2つに分けて説明しています。

【連語も積極的に載せる】
【連語も積極的に載せる】

筆者プロフィール

飯間 浩明 ( いいま・ひろあき)

早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。

URL:ことばをめぐるひとりごと(//www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

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編集部から

生活にぴったり寄りそう現代語辞典として定評のある『三省堂国語辞典 第六版』が発売され(※現在は第七版が発売中)、各方面のメディアで取り上げていただいております。その魅力をもっとお伝えしたい、そういう思いから、編集委員の飯間先生に「『三省堂国語辞典』のすすめ」というテーマで書いていただいております。