タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(75):Morkrum Printing Telegraph

筆者:
2020年2月13日
『The Post Office Electrical Engineers' Journal』1913年7月号
『The Post Office Electrical Engineers' Journal』1913年7月号

「Morkrum Printing Telegraph」は、シカゴのモークラム社が1910年に発表した遠隔タイプライターです。モートン(Joy Morton)とクラム(Charles Lyon Krum)が1907年に設立したモークラム社は、タイプライター型の電信機器を専門とする製造会社で、「Morkrum Printing Telegraph」は最も初期のモデルにあたります。

「Morkrum Printing Telegraph」の最大の特徴は、2台を電線でつなぐと、送信側で打った文字が受信側にも印字される、という点です。電線に流れるのは、現代的に言えば、1文字5ビットのデジタル信号です。モールス電信用の電線を流用できることから、実際にシカゴ~ニューヨーク間の電信にも使われました。

「Morkrum Printing Telegraph」の印字は、電動のタイプ・ホイール(活字を埋め込んだ金属製円筒)によるものです。タイプ・ホイールの表面には、54個(27個×2列)の活字が埋め込まれています。このタイプ・ホイールが、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、印字がおこなわれるのです。タイプ・ホイールの上列には、大文字26種類とピリオドの活字が埋め込まれています。タイプ・ホイールの下列には、数字10種類と記号17種類(ピリオドを含む)の活字が埋め込まれています。小文字はありません。キーボード中段左端の「FIG」キーを押すと、タイプ・ホイールが上がったままになって、その後は数字や記号が印字されます。キーボード下段左端の「REL」キーを押すと、タイプ・ホイールが下がったままになって、その後は大文字が印字されます。キーボード中段右端の「CAR RET」キーは、タイプ・ホイールを左端に戻します。キーボード下段右端の「LINE FEED」キーは、改行(紙を1行分進める)をおこないます。動作は全て電動で、送信側と受信側が同時に動作します。

「Morkrum Printing Telegraph」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。キーボードの上段は、大文字側にQWERTYUIOPが、記号側に1234567890が並んでいます。キーボードの中段は、左端に「FIG」キーがあって、大文字側にASDFGHJKLが、記号側に-#$%&£'()が並んでおり、右端に「CAR RET」キーがあります。キーボードの下段は、左端に「REL」キーがあって、大文字側にZXCVBNM.が、記号側に"/:,@¢?.が並んでおり、右端に「LINE FEED」キーがあります。ピリオドがダブっているため、27キーで53種類の文字が搭載されているのです。

「Morkrum Printing Telegraph」は、商用の遠隔タイプライターとしては嚆矢とも言える存在ですが、耐久性の点では問題を抱えていました。タイプ・ホイールが紙に叩きつけられる際に、タイプ・ホイール全体の荷重が活字一点にかかってしまうので、活字がすぐボロボロになってしまうのです。この問題を解決すべく、モークラム社は、さらなる遠隔タイプライターの開発をおこなうことになるのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。