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第73回【最低賃金】さいていちんぎん

筆者:
2025年9月29日

[意味]

労働者の賃金の最低額で、都道府県別に時給当たりで示される額。最低賃金法によりすべての労働者に適用され、使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

[略]

最賃。

 * 

最低賃金の2025年度改定額が9月5日に出そろい、厚生労働省は全国加重平均が1121円になったと発表しました。前年度より66円の上昇で、引き上げ額は5年連続で過去最大。最高は東京都の1226円、最低は沖縄・高知・宮崎県の1023円となり、全都道府県が1000円を超えたのは初めてのことです。

政府による引き上げ要請や、地方の行政トップが大幅アップを再三求めたことなどもあって、39道府県で国の中央最低賃金審議会が示した目安額(63円)を上回る引き上げとなりました。背景には賃金が高い地域へ人材が流出することへの危機感があるからです。人手不足が深刻な状況では、最低賃金が引き上げられるのは必然といえるのかもしれません。

ただ、労使とも賃上げが必要なことでは一致していても、特に地方では人件費負担に耐えられないところも出てきます。大幅な賃上げを見据えて、政府が中小企業への助成拡充などの支援策を打ち出してはいるものの、効果はいかがなものか。そもそも賃上げに税金を使うことや、過度な政治介入には根強い批判があるのも事実です。広くバランスのとれた誰もが納得のいく政策が求められます。

例年、改定額の発効は10月ごろに実施されますが、各地の地方最低賃金審議会で適用時期を遅らせる動きが相次ぎ、2025年度は20都道府県にとどまります。これは収入増による「年収の壁」を意識した年末の就業調整を防いだり、賃金体系変更のための準備期間を取ったりするための、経営側への配慮。11月以降になったのは27府県で、うち越年で実施するところは6県あり、秋田県に至っては年度末ぎりぎりの3月31日となっています。最低額が引き上げられたとはいえ、発効が遅れてしまっては、労働側の手取りの目減りにつながりかねず、元も子もありません。

新聞記事データベース「日経テレコン」で、日本経済新聞の朝夕刊に「最低賃金」が現れた記事を検索すると、2024年は370件あり2000年以降で過去最高となりました。2025年は9月12日現在ですでに252件と前年を超える勢いです。良くも悪くも「最低賃金」は時代のキーワードとして、しばらく注目が続くことでしょう。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典 第2版』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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