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第77回【完全養殖】かんぜんようしょく

筆者:
2026年1月26日

[意味]

人工孵化から育てた成魚の卵を採り、さらに人工孵化させること。(大辞林第四版から)

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2025年10月、北海道函館市がキングサーモン(和名・マスノスケ)の完全養殖に成功したとの報道がありました。北海道大学水産学部と共同で取り組むプロジェクトで、人工的に孵化したキングサーモンから再び稚魚を得る完全養殖は国内初とされます。イカの街として知られる同市では、スルメイカなどの不漁が続くなか、新たな地域ブランドとして事業化を目指しているといいます。

海水温の上昇や海流の変化は、魚介類の分布や資源量に影響を及ぼし、各地で水揚げ量の減少など水産業に深刻な打撃を与えるようになりました。持続可能な開発目標(SDGs)の流れにも合った完全養殖の研究・取り組みは、函館市に限らず広く行われています。

新聞記事データベース「日経テレコン」で、日本経済新聞の朝夕刊に「完全養殖」が現れた記事を検索すると、2000年代になってよく見られるようになったのが分かります。2002年に近畿大学がクロマグロの完全養殖に成功、2010年に量産化事業が始まると記事件数が急増しました。また、同年は水産総合研究センター(当時、現水産研究・教育機構)がウナギの完全養殖に世界で初めて成功した年でもあり、注目度が増しました。2010年代は「完全養殖」の話題に事欠かない時期で、2014年度に近畿大学が一般入試志願者数日本一になったのも「近大マグロ」の効果が大きかったとも言われています。

そんなクロマグロの完全養殖も足元では商業生産が縮小傾向。マグロの安定供給を目指したものの、餌代の高騰や天然資源の回復で、大手水産企業の事業縮小や撤退が続いています。昨今では、ご当地サーモンをはじめ、ブリやサバなど他の魚種を取り上げた記事が増えてきました。資源保護と食文化の両立には欠かせない完全養殖。魚種は変われど、新たな取り組みは続きます。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える! 用字用語辞典 第2版』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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