19世紀末から20世紀にかけて、一世を風靡したタイプライター。21世紀の今は、ほとんど実物を目にすることが無くなりました。そんなタイプライターを、当時の雑誌や新聞の広告から拾い上げるのが、この連載「広告の中のタイプライター」。タイプライターが日常生活の一部だった時代を、ちょっとだけ覗いてみましょう。
1933年6月20日、IBM (International Business Machines Corporation)は、エレクトロマチック・タイプライターズ社を買収、同社の「Electromatic」をIBMブランドとして販売しはじめました。「IBM Electromatic」は「ALL ELECTRIC」(完全電動)を売りにしていて、広告にも「電気」をイメージした「ビカビカの雷マーク」が青く描かれています。全ての動作がキーボード上のキーで電気的におこなわれる、というのが「IBM Electromatic」の売りで、すなわち、各文字の印字やシフト機構だけでなく、キャリッジ・リターンも、改行も、タブ機構も、バックスペースも、全てが電動だったのです。
「IBM Electromatic」は、フロントストライク式の電動タイプライターで、大文字26種類、小文字26種類、数字10種類、記号20種類が印字可能です。キー配列は、大文字と小文字がQWERTY配列になっており、最上段に数字が1234567890と並んでいて、そのシフト側に記号が!@#$%¢&*()と並んでいます。すなわち、「@」が「2」のシフト側にあって、これが「IBM Electromatic」のキー配列を特徴づけていました。「P」のすぐ右のキーには、ハイフン「-」のシフト側にアンダーライン「_」が載せられています。「L」のすぐ右のキーには、セミコロン「;」のシフト側にコロン「:」、そのすぐ右のキーには、シングルクォート「‘」のシフト側にダブルクォート「“」が載せられています。「M」のすぐ右のキーはコンマ「,」で、シフトを押してもコンマのままです。そのすぐ右のキーはピリオド「.」で、シフトを押してもピリオドのままです。そのすぐ右のキーには、「/」のシフト側に「?」が載せられています。コンマとピリオドがダブっているため、82種類の文字が42個のキーに載っているのです。
「IBM Electromatic」では、全ての文字幅は同一で、たとえば、「l」も「W」も同じ文字幅で印字されました。また、印字される文字の濃さが全て同一となるよう、常に同じ濃さで、活字棒(type arm)がプラテンの前面を叩くようになっていました。キーを押す力の強さを揃える必要はなく、最大20枚までのカーボンコピーが可能というのが謳い文句でした。右端の「CARRIAGE RETURN」キーは、キャリッジ・リターンと改行を同時におこなうもので、重いキャリッジを手で戻す必要が無くなったのです。
1933年発売の「IBM Electromatic」は、IBMにとって最初のタイプライターでした。その後のIBMタイプライターは、「IBM Electromatic」の路線を踏襲し、電動タイプライターを次々に発売していくことになるのです。