10分でわかるカタカナ語

第11回 ユビキタス

2005年2月7日

どういう意味?

「何時でも何処でも意識せずに、情報通信技術を利用できること」です。

もう少し詳しく教えて

元来、ユビキタス(ubiquitous)は「同時にどこにでも存在する」ことを意味する英語の形容詞です。しかしながら日本語では「ユビキタスコンピューティング」の略として登場することが多く、その場合「いつでもどこでも、利用者が意識する事無く、コンピューターやネットワークなどを利用できる状態」をさすことになります。具体的には「カーナビが渋滞状況を把握した上で道案内してくれる」「品物を持ったままコンビニを出ると、自動的に代金が引き落とされる」「自宅に来客があると、携帯電話がそれを知らせてくれる」などの環境がこれに当たります。このような環境を実現した社会を、ユビキタス社会などと呼びます。

どんな時に登場する言葉?

情報通信技術(いわゆるIT)の分野でよく言われる語です。

どんな経緯でこの語を使うように?

元来ユビキタスは近代ラテン語に登場する神学(キリスト教)の概念で「イエス・キリストが、時間や空間を超越して遍在(あらゆるところに存在)すること」をさす概念です。ですからこの語のもともとの意味は「同時にどこにでも存在する」というよりは「何時でもどこでも存在する」という意味だったということになります。後に英語では「このコンビニって、どこにでもあるよね」というような文脈で使われる単語になりました。

一方、現在の意味のユビキタスを最初に概念化したのは、ゼロックスパロアルト研究所のマーク=ワイザー(Mark Weiser)でした。1988年に「生活環境のあらゆる場所に情報通信環境が埋め込まれ、利用者がそれを意識せずに利用できる状態」をユビキタスコンピューティング(略してUbiComp)と定義して、これを提唱したのです。インターネット環境やモバイル環境(=移動通信環境)が急速に充実した2000年頃からは、この語が「実現可能な概念」として再注目されることになり、現在に至ります。

ユビキタスの使い方を実例で教えて!

ユビキタスコンピューティング

「生活環境のあらゆる場所に情報通信環境が埋め込まれ、利用者がそれを意識せずに利用できる技術」を、ユビキタスコンピューティングと呼びます。この概念は前述の通り、ゼロックスパロアルト研究所のマーク=ワイザーによって、1988年に提唱されました。ワイザーはコンピューターの利用形態を3世代に分けて、それぞれメーンフレーム(=1台の大型コンピューターを多人数が使う)、パソコン(=1台のコンピューターを一人が使う)、ユビキタスコンピューティング(=一人を多数のコンピューターが取り巻く)と説明しました。つまり、家電製品・衣類・住居・施設・道路など、ありとあらゆる場所に情報通信技術が存在する状態こそが「第3世代の利用形態」だと予想したのです。

ユビキタス社会/ユビキタス環境

前述のユビキタスコンピューティングが実現している社会(環境)のことを「ユビキタス社会(ユビキタス環境)」と呼びます。

ところで、提唱者であるワイザーの概念では「利用者がそれを意識しない(=簡易なインターフェースを実現する)」という部分が重視された点に注意を払う必要があります。つまり、利用者が機器の操作法を習熟しなければならないような環境は、ユビキタス環境としては不十分だと考えたのです。例えば「出社時に電子入館証で扉を開けながら、手元の携帯電話で日程を確認する」のが不十分なスタイルだとすると、「カメラが顔を自動認識して扉が勝手に開き、自分の日程がアナウンスされる」ような仕掛けが十分なスタイルということになります。

言い換えたい場合は?

狭義のユビキタス(=同時にどこにでも存在する)を表す場合は、「遍在」という言葉を使用することができます。「“遍”在」であって「“偏”在」ではない点に注意してください。一方、ユビキタスコンピューティングの略語としてのユビキタスの場合、これを一言で言い換えることは困難です。例えば国立国語研究所では、言い換えの暫定案として「時空自在」という造語を提案しましたが、「タイムマシンを想起させる」などの理由から、正式な提案が見送られました。現在のところは面倒でも「ユビキタス(何時でも何処でも意識せずに、情報通信技術を利用できること)」などの文章表現を用いることをお勧めします。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

どこでもコンピュータ 国産OS「TRON」の開発者として知られる、東京大学教授の坂村健も、1980年代初頭に同様の概念を提唱していたと言われています。この時の坂村の概念は「どこでもコンピュータ」と命名されていました。後に坂村も「ユビキタス(コンピューティング)」の語を用いて、その啓蒙活動に当たっています。

筆者プロフィール

三省堂編修所

編集部から

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